芦屋の高級住宅街で暮らしている令嬢（雨野夕紀）が、監禁行為を働いた青年（市山登）との逃避行に生き甲斐を見いだしていく。非日常的な刺激を追い求めている男女の逸脱行為を描いている、日活ロマンポルノ。

未知の世界に触れた令嬢と高嶺の花を手中にした素朴な青年の交流劇。世間体を気にした家族が我関せずを決め込むという、お決まりのパターンを踏襲しており、ふたりの行く末は大体予測できてしまう。

犯行現場の下階に入居している女性（木築沙絵子）が、ふたりを幇助する立ち位置で登場。芝居に定評のある木築沙絵子だが、本作の関西弁はかなりぎこちなく、ミスキャストの感が否めない。

とはいえ、犯人と被害者が主従逆転するドラマ展開と、自由を追求するための逃避劇はなかなかどうして見応えあり。男の股間を攻撃して危機を脱出するという、ロマンポルノにしては珍しいシーンも見られる。

ラピュタ阿佐ヶ谷に観に行きたいんだけど多分行けないのでおうちで観る。池田賢一初監督作品で気合が入っているんだけどとにかく杉本一海のカメラがすごい。終盤の手持ち長回しとか感激。アマプラで画質悪すぎるので絶対ラピュタ阿佐ヶ谷で観たほうがよい。あと音楽はダサめだけど環境音の使い方が素晴らしい。芦屋の令嬢が変質者ストーカー男にいきなり拉致監禁される。令嬢役の雨野夕紀、金はあるけど育ちは良くない成金わがまま娘感にあふれていて素晴らしい。成金わがまま娘はわがままなので、親の決めたやんごとなき婚約者との将来が見えてるお嬢様生活におそらくモヤモヤしている。変質者ストーカー男はストーカー男なのでお嬢様を心の底から愛し崇拝している。モヤモヤお嬢様がストーカー男のひたむきな愛に心を許したのかなと思う瞬間があって感動しちゃったんだけど、なんてことはない、お嬢様は1週間限定で野卑な王子様に連れ去られてみたかっただけだったようだ。自己愛しかないわがまま娘のわがままとストーカー男の狂おしい愛、というより刹那的な偶像崇拝がぶつかり合う激しい濡れ場は感動しかない。海辺のフラメンコとかよくわかんないなと思いつつこの映画はずーっと、しつこいくらいに水推し。あと木築沙絵子がお嬢様と対照的な屈折ゼロ・めんどくささゼロの場末女で素敵である。ただしストーカー男が木築沙絵子にも手を出しやがったところはストーカー男の風上におけない。女の自己実現を描いた王道ロマンポルノでなかなかの佳作。桂千穂にしてはまじめだけど佐竹さんが暴れだすあたりは桂千穂。真実の愛見つけちゃいました系かなと勘違いしながら途中まで観てしまったのでもう1回ちゃんと観たい。愛ってどんなに手を伸ばしてもつかめないよね系だった。

芦屋で訛りがあるのは木築さんだけなのね。全体的にもう一押し欲しいのだが、杉本一海の撮影がとにかく素晴らしい。油絵に洗濯機のホース、明石焼で白ワインにハイブランドの靴にスカッシュなどなど見飽きない場面は多い。桂千穂。