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クレイマー、クレイマーのRenのレビュー・感想・評価

クレイマー、クレイマー(1979年製作の映画)
3.5
105分の決して長くない上映時間の中に、仕事と育児の両立、父親/母親の性差とステレオタイプ、離婚調停並びに「家族とは?」が難解にならず詰め込まれていて非常に分かりやすかった。40年以上前のアメリカの話ながら現代の日本にも通じてしまうファミリードラマ。

母親は家で家事と子育てをして父親は働き生活費を稼ぐ、というライフスタイルがふとしたきっかけで崩れていく。フレンチトーストも作れずフライパンの収納場所すら分からない父親の奮闘は喜劇的でありながら悲劇的。

テッド(ダスティン・ホフマン)は不器用すぎるけど、全てはビリー(ジャスティン・ヘンリー)のためであることは子育てエピソードの連打で存分に伝わるし、事実距離を縮めているので親適正無しとは絶対に言えない。同様に、子を置いて家を飛び出したジョアンナ(メリル・ストリープ)を無責任と一蹴するのもおそらく誤読だと思う。

二人のすれ違いの背景にあるのは一個人に責任の所在を見つけられるような性質のものではなく、「女性の社会進出に伴う社会意識・システムの変化」だった。良き専業主婦の面をかぶることに疲れたがジョアンナは、安住の場所を確保したことでビリーへの愛を再確認する。別離の道を選んでも夫婦の中心には常に息子がいたのに、その息子を巡って争わないといけない苦しさが後半に襲いかかってくる。

そう考えると、ジョアンナ側のストーリー並びにビリーのストーリー(彼が一人で登場するシーンは無い)が一切省かれているのは少し歪な気がした。前半の主軸が父親の成長に置かれているのは分かるが、終盤 離婚調停の話になった際に家族3人それぞれのバックボーンが不均衡なのは気になった。
ジョアンナの心変わりのきっかけも突然な気がしてしまう。

どちらか(もしくは双方)が大なり小なり何かを我慢しているのが結婚なのではないか。鑑賞後少しでも「結婚とかしたくないです....」という気にさせてくれる結婚・夫婦・家族の話は美談一択のものよりはるかに信頼できた。
人気作だし名作なので語るべきポイントはもう出尽くしている感があるためそこまで語れないが、観てよかった。

その他、
○ エレベーターに乗って息子(家)から離れたジョアンナ。ラスト、エレベーターに乗って息子の元へ行く。エレベーターのドアの持つ意味の逆転が美しい。
○ アカデミー賞で主要5部門を独占したのは過去三作のみだけど(『或る夜の出来事』『カッコーの巣の上で』『羊たちの沈黙』)、今作もほぼ同じことだと思う。
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