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哀しき獣の655321のレビュー・感想・評価

哀しき獣(2010年製作の映画)
3.8
ナ・ホンジン監督の生み出す“フック”は絶妙だ。
サスペンスフルでありながらなんともおバカで、しかしこのドギツイ配色のルアーには眼を奪われ食いついてしまう。
『チェイサー』『哭声』『哀しき獣』の三作全てでまんまと釣り上げられてしまっているが、水面へ急上昇するその浮遊感が心地良い。

今作で最も大きな釣り針として機能しているのが
ミョン(キム・ユンソク)だ。
『ノーカントリー』のシガーを彷彿させる“歩く災い”のような男。
とにかく強い。べらぼーに強い。
将なのに前線に出てくる呂布みたいな男。
後半に向かうにつれて何が何だかよく分からなくなるこの戦場のような映画に於いても、呂布の後ろをついていけば方天画戟を牛骨に持ち替え血路を開いてくれる。

『哀しき獣』はグングン引き込まれるが何処に向かっているのかイマイチ分からなくなる。きっと登場人物もよく分かっていないだろう。
狂犬病に罹ったように見境なく噛み付く男達。
男惚れするような、荒々しくエネルギッシュに突き進む物語の終着点が

“オトコってホントバカね”

という身も蓋もない場所にあるのも大好物で、またも見事にナ・ホンジン監督に釣られてしまった。
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