Kuuta

モスラのKuutaのレビュー・感想・評価

モスラ(1961年製作の映画)
3.8
日米合作で、史上最大規模のミニチュアセットが組まれた大作。

マスコミの取材攻勢が最初は鬱陶しいものに見えるが、記者のフランキー堺が調査団に潜入する展開が観客目線の導入に繋がっている。彼は悪役の行動を告発し、平和的な世論形成にまで貢献していく。新聞記者という設定を使った話の動かし方が秀逸。

東京での小美人のダンス(大衆の欲望の具現化=フリークショーを模している)と、幼虫が迫る船という距離の離れたシーンを、同じラジオの音声でカットバックさせるのも上手い。

ロリシカ国(実質アメリカ)の市民と、インファント島の黒塗り原住民を重ねる編集も良かった。平和に人種は関係ないと。原住民は楽器を鳴らして調査団を威嚇するが、武器を持つ事を知らない人種である。

(楽園としての南の島をアメリカと日本が奪い合う構図は、当然太平洋戦争に重なる。アメリカは人が住む島で核実験を行い、それを日本人が非難する)

香川京子のセーターやスカーフなど、総天然色を生かした赤が印象的な映画だ。小美人のショーも暖色が多く、意図は分からないけど良い画面だなぁ…と思っていたら、繭のシーンで最高にカッコいい東京タワーが登場。あーそうだったと。配色も視覚的な伏線だったのだろう。

「モスラに善悪は分からない。本能しかない」というセリフに、近年のモスラとのギャップを感じる。養蚕信仰がベースにあるのか、より純粋な神に近い。

真っ先に壊すのが豪華客船とダムなのも、やや毒っ気があるような。今作は五輪に向けて再開発が進む東京を舞台としているが、一方向へ暴走する力(幼虫)が街を壊す映画だと捉えると、意外と政治的な側面も?

幼虫が海を進むシーン、爆風で舞い上がった水しぶきで小さな虹が出来る。今の怪獣映画ではありえない撮影ではないか。夜の東京襲撃では、赤い爆煙に照らされるモスラの不気味さが際立つ。進路を変える度に東京の地名が出てきて、次々に町が潰される展開はシンゴジラっぽいとも感じた。北から東京に攻め入るルートは、ゴジラ映画を見慣れているとかなり新鮮。青梅街道を画面手前に進み、ガソリンスタンドを破壊する場面、構図とミニチュアの精巧さが噛み合った名場面だ。

最大の見せ場は有名な繭を作るシーン。東京タワーの曲線に合わせてカーブするモスラの体、夜空へ吹き上げられた白い糸、繭の内側に映る幼虫の影。東京の日常のど真ん中に巨大な非日常が横たわっている。常識のタガが外れてしまったような引きのショットが圧巻。

終盤はロリシカ国へ舞台が移る。ミニチュアは東京のような作り込みが弱く、悪い意味で抽象化された海外のビル群なのがやや物足りないが、日本以外の街でこんだけ暴れる東宝怪獣も当時からすれば珍しいだろう。

「三大怪獣」でテレビ出演していた時も感じたが、小美人は周囲に振り回されっぱなしながら、ショーは割とノリノリで参加しているように見えるのが、なんとも平和である。76点。
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