このレビューはネタバレを含みます
トランボによる怒りの集大成とも言える作品に心が震えた。
身元不明の負傷兵407号。
大脳は激しく損傷しているが、延髄だけが損傷を逃れた故に心臓や呼吸中枢は機能し続けている状態。
四肢は壊死しているために切断。
ティラリー将軍の意向で、他の患者を救う実験材料として生かしておくことが決定された。
痛み・喜び・記憶・夢・思考・感覚・感情も無い死者と同じだ、と言われていたが、実のところジョーには意識があった。
「自分はジョーである」という自己認識もあった。
幼い頃からの記憶も父親との会話もカリーンとの思い出もしっかりとあった。
この点がジョーにとっての悲劇であり、絶望であり、慟哭となった。
が、一方で記憶を思い起こして再構築し、父親やカリーンと(ジョーの頭の中で)再会し、問いかけられたという意味では救いともなっている。
父親もカリーンも当時のままの姿でね。
聖書の創世記には「人間は神の像(かたち)に創造された」とある。
生まれつき五体満足でないとしても、すべての人間は神による創造物だという教え。
が、肉塊となったジョーは『人間の起こした戦争』によって生み出された存在な訳だ。
首に十字架をつけた看護師は、ジョーに尊厳をもって接し、ジョーのために涙を流して祈る。
そしてジョーの出しているサイン(モールス信号)に気づく.....が、
キリストとの会話も興味深い。
救いを得るにはどうすれば良いのかアドバイスを求めるジョー。
キリストは言う『奇跡が必要だ。私は非現実の存在だ』と。
『死なせて欲しい』と訴えるジョーの願いは叶えられず、ただSOSを繰り返すしかないジョー。暗転。
だけど思い出して欲しい。
ジョーの出征を見送りに来た時のカリーンの"たった一つの願い事"を。
カリーンの願い事は『神様、この人を死なせないで』だったのだから。
.....なんてひねくれた見方もできちゃうね。