緑雨

チェンジリングの緑雨のレビュー・感想・評価

チェンジリング(2008年製作の映画)
4.5
演出の完璧さについてすべてを語ることなど到底できないが、ここでは特にアップカットの使い方の素晴らしさに触れておきたい。
アンジェリーナ・ジョリーのアップカットが素晴らしく印象的なのは勿論のこと、少年の怯えや警部の憎々しさ、医師の冷徹さ、弁護士の職業的恫喝など、脇役においても、アップが有効に使われている。感情の発露をいかに強烈にフィルムに刻みつけるか、やはりイーストウッドは映画を知り尽くしているのである。感情の発露と言えば、警察に嵌められ精神病棟に監禁される一連のシーンでの、尋常ならざる恐怖と閉塞感の描出も極限的だ。『カッコーの巣の上で』どころではない。

もう一つ取り上げずにいられないのが、殺人犯ジェイソン・バトラー・ハーナーの描き方。判決時や、執行前日の面会室でのジョリーとの絡みもそうだが、死刑執行シーンをあそこまで丹念に描くことにどんな意味があるのか。作劇上の必要性だけを考えれば、彼に最期の叫びなどさせなくてもいいはずだ。しかし、ともすればジョン・マルコヴィッチに象徴されるような危うい「善意」に救われた不幸な女性のお話で終わってしまいそうなところに揺さぶりをかけてくる、イーストウッドの矜持みたいなものを、あの死刑囚の描き方に感じる。やはり一筋縄ではいかないのである。
緑雨

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