YAEPIN

「A」のYAEPINのレビュー・感想・評価

「A」(1998年製作の映画)
3.9
地下鉄サリン事件直後のオウム真理教に密着したドキュメンタリー。

教団は殺到するテレビ局の取材にはかなり厳格に統制をとって対応しているにもかかわらず、森達也とプロデューサーはよくここまで内部にまで立ち入ることが許されたものだと驚く。

オウムが起こした事件、ことに地下鉄サリン事件は、ラッシュ時を狙った極めて卑劣なテロであるという大前提に立ちながらも、テレビ局との押し問答や警察の強引な捜査を目の当たりにすると、何とも複雑な気持ちになった。
テレビ局や警察が、目の前の成果を焦るあまり、精神的、肉体的に暴力性をあらわにしていく様子がまざまざと映される。
オウム真理教に対する同情ももちろん湧かないが、信者のインタビューを聴くと、こういう俗世間からの解脱を目指してオウムに入信したのかと想像してしまった。

オウム真理教には高学歴な学生が多く入信したということは知っていたが、確かに冷静で(彼らの中での)論理性を重んじる姿が見てとれた。
テレビのワイドショーで教団と事件がセンセーショナルかつ批判的に取り沙汰されているのを見ても、怒るのではなく、「観念崩し」「信仰への試練」と表現し、あくまで客観的な視線を送っているのが印象的だった。

また、被害者の会と広報副部長の荒木浩が笑顔で会話しているのにも驚愕した。
信者が地域の人に諭されるような場面もあったが、その言い方には親しみも込められているように感じられる。
90年代初めには、テレビのバラエティにも多く出演していたと聞くので、やはり事件前にはエンタメ的に受容され、事件と信者は切り離すような見方もされていたことを知った。

そう思うと、少なくとも散々面白おかしくオウムを取り上げてきてから、自身を顧みず、事件後に執拗に教団を糾弾し始めるメディアの罪深さは決して無視できない。
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