円柱野郎

桜田門外ノ変の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

桜田門外ノ変(2010年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

クライマックスの暗殺事件は映画の前半に描かれ、後は浪士達の逃亡劇として物語は進む。
話としては主人公・関鉄之助の視点で描かれているけど、どうも関の人物描写が表面的というか、妙に距離を感じてしまったかな。
これは俺自身が映画で描かれる井伊襲撃の根拠に共感出来ていないから、人物として感情移入出来なかったからかもしれないけど、関が逃亡の途中で水戸に戻って家族を遠くから見守る姿にも、妾が拷問に遭って死んだという報に涙しても、どうも同情出来なかった。

そもそも映画の視点として、見せたい側と観る側の温度差がありすぎるんじゃないか。
その極致が浪士達の死因(戦闘死・自刃・斬首etc)の列挙で、特に白砂の場で斬首を言い渡されて引っ立てられるシーンでは都合7人が順に連れて行かれる様をノーカットで流すのだけど、ハッキリ言って完全にテンポを殺してる。
撮ってる方は無念の志士の緊張感をこれでもかと描いているつもりなんだろうけど、これは観ている側としては逆効果でしょう。 なにせ志士個人個人への感情移入をするまもなく話は進んでいるのだし、逆に何でカットを割らないのかは疑問ですらある。

国を憂いてテロを決行し、最後には水戸浪士側はほぼ全員が戦死か極刑。
しかも主君を守れなかった彦根藩士側も供回り全員が切腹・斬首。
でも、井伊一人を討つための犠牲に見合う世の変化があったのかということと、志半ばで散った水戸浪士達の無念を描いているはずなのに、ついに埋まらなかった俺とこの話との距離感のために乗り切れないまま映画は終わってしまった。

冒頭と最後には、現在の桜田門と国会議事堂がパンで繋いだ映像が流れるけども、もはやこれは"暗示"ではなく"安直"です。

浪士達を演じるは大沢たかおを筆頭に、柄本明、生瀬勝久、渡辺裕之、西村雅彦などの顔ぶれで豪華だと思うんだけど、演出が上のような案配のでいかんとも。
ただ、北大路欣也が演じる徳川斉昭と伊武雅刀が演じる井伊直弼の、日米和親条約・通商条約についての議論のシーンなどは熱かったかな。
これは俳優としての存在感、これに尽きる。
円柱野郎

円柱野郎