HicK

スパイダーマン2のHicKのレビュー・感想・評価

スパイダーマン2(2004年製作の映画)
4.5
《主人公をどん底からの神格化。スパイダー最高傑作》

【テーマ】
前作の『大いなる力には、大いなる責任がともなう』というテーマを掘り下げ、今作はより具体的な『正しい事をするには、時に大切な物を諦めなくてはならない』というテーマ。

【コメディー】
とても攻めているなぁという印象。前作以上に全編にわたり冴えないピーターのコメディーが散りばめてあり、スキあらば笑かしてくる。もう彼は冴えないというか運がないのでは?と思ってしまうほど、彼が可哀想なまでに叩き潰されるコントが多発。

【絡み合うキャラたち】
前作のサンクスギビングの修羅場シーン同様、今作もピーター、MJ、ハリーが一堂に会すパーティーシーンの修羅場が秀逸。MJに失望されハリーには責められる究極のどん底。本当にこのシリーズは登場人物たちの関係性を巧みに操っている。

【どん底】
公開当初はピーターの能力が悩みを抱えるだけで消えるなんて安っぽいと思っていたのだが、大人になってから見返すと驚く事に共感してしまう。エンタメとしてコメディーに特化しているので感じにくいが、これだけボロクソな状況だったらふつうに鬱になってしまう。「大いなる責任」のせいで大切な物を諦めなくてはいけない、それだけでは無く、自分に厳しくしていくと他人まで巻き込んでしまうというジレンマがとても良く表現されていた。

【這い上がる】
そんな悲惨な状況のオンパレードの中、メイおばさんに背中を押され、MJが命の危機にさらされた事で、「大切だと思っていた事以上に大事な事がある」と本能で気づき覚醒する様にはやはり熱くなる。列車のシークエンスでスパイダーマンの正体を知った乗客が「まだ子供だぞ」と言うセリフ、立ち上がる市民、公開当時は泣かなかったのに今になって涙が溢れてくる。未成年の子供がおこなった数々の自己犠牲、背負った苦悩の数々、それを思うとそれでも市民を救おうとする姿に大人になった今胸が苦しくなる。

だからこそラストでのMJとのシーンはカタルシスたっぷりに美しい。前作でも着地が秀逸だったが今作も素晴らしかった。

【演出】
ライミ監督の良さもましている。人々の恐怖や機器の迫り方の演出がカメラズームを多用したり効果音がプラスされていたりと、もはやホラー映画調になっていて面白い。手術室のシーンなんてB級ホラー映画そのもの。

ドクオクのテーマ曲をはじめ、音楽もかっこいい。

【ただ…】
MJの扱いは3部作通して、「ストーリー上ピーターに試練を与える/火事場の馬鹿力をスパイマーマンに出させる口実」に特化してしまって、どこかピーターのために記号化されてしまっているので、今作あたりから徐々に変えていってほしかったとも思う。ただ逆を返せば、「全ての登場人物はピーターを際立たせるために出している」という割り切った意図も伝わってくるので、そう考えるとこれもシリーズの魅力なのかなとも思うが。

【まとめ】
今作はピーターをこれでもかとボロクソに突き落とし、這い上がらせるまでの過程が秀逸な究極のツンデレ作品だった。本当に精神的成長を共感しやすいレベルで非常に上手く描いている。応援せずにはいられない気持ちにさせてくれる大傑作だと今でも思う。
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