映画ネズミ

ファニーゲームの映画ネズミのレビュー・感想・評価

ファニーゲーム(1997年製作の映画)
4.5
 本日3通目の投稿、映画ネズミです。今日は私、いろんなジャンルを駆け巡っていますが、「田舎ヤバいぞ」シリーズ第2弾は、ヨーロッパの映画監督ミヒャエル・ハネケの代表作です。

ネズミの感想はこんな感じです:うわ~っ。性格悪~っ。

この映画はこういう人に向いています:
① 映画監督、脚本家志望の人。観客がどうやったらキレるか分かります。
② 映画評論家志望の人。ハリウッドの、暴力の商品化を糾弾する映画です。
③ ラース・フォン・トリアー好きな人

この映画はこういう人には不向きです:
① 「見る専」の人。わざわざキレることないです。
② 映画は娯楽だと思う人。キツイっす……。

ハネケです。はい、鬼畜野郎です。

 と、偉そうなことをいいながら私、ハネケ作品は、初期の『セブンス・コンチネント』、本作、『ピアニスト』『愛、アムール』の4本くらいしか見てないです。まあ、どれも最悪です(ある意味褒めてます)。

 ハネケを見たことない人に、あえて作品のイメージを伝えるなら、「自意識過剰でメタ視点を持ったキューブリック」です。

 ハネケの映画は毎回、登場人物を突き放して描きます。「人間ってしょうもないよね」というテーマがいつもあります。このテーマには大賛成ですし、その描き方は、キューブリックと共通していますね。

 また、ちょっと自意識過剰なので、肝心なところをナレーションで済ませる不格好な映画だったりします。この映画の話ではないですが。

 さらに、ハネケの映画には、「観客が今この『映画』を見ていること」「映画であること」を意識した描写が出てきます。はい、ここが意地悪いんです。いわゆるメタ視点です。こういうメタ視点も、『スクリーム』とか『キャビン』とか『トロピック・サンダー』とか、観客を楽しませる方向のものもあるんですが、違います。

「映画が好きなことをある意味後悔させるタイプ」のメタ視点です。

 例えば、この映画のクライマックス(いきなりそこ話すか!)、ある本当に、くっだらない展開があるんです。でも、そういう展開を見ていても、ハネケのにやけ顔が見えるんです。「どうだお前ら、こうされたらイヤだろう?」。そういう点を捉えて、「これは、暴力すらも商品とするハリウッド映画とそれを消費する世界の大衆を批判的にみている」と見ることもできるし、「このク○ジジイ! ぶっ○してやる!」と反応することもできます。

 この映画、演出がすごく丁寧です。ちゃーんと、すべてが、観客をキレさせるためだけに、恐ろしく精緻に組み立てられているので、隙がないです。演出、演技、撮影、編集、音楽の使い方(冒頭のやつとか最悪ね)まで、すべてにおいて隙なしの作品です。参りました。

 ただ、見る人によっては、激烈な反応をすると思いますし、この映画を見て、「うほっ、おもしれー」と呑気に楽しめる人もいるかもしれません。こういう映画もあるから、映画って奥が深くて面白いんですよね。

 この映画、お母さん役の女優さんの演技が素晴らしいです。この人が実質主役級なんですが、最初の節度をわきまえた若妻風の人が、だんだん追い詰められていくところを、その肉体の説得力で見事に演じ切っています。

 あと、白い服の2人組の少年も、絶妙に人をイラつかせる態度を見事に表現しています。私も、見ている途中、心の中で75回くらい半殺しにしました。最高です。

 実は、そんな性格悪いハネケも、最近撮ってカンヌで評価された『愛、アムール』では、また違った深みを見せていますので、もしこの映画が嫌いでも、ハネケのことは嫌いにならないでください(←うまくねーよ)。

 この人と似た映画作家がいるんです。ラース・フォン・トリアーです。この人もこの人で、何で娯楽でこんなにイヤな思いさせられなきゃいけないんだ! 私お前が嫌がること何かしたか!?と言いたくなります。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか、『ドッグヴィル』とか、『アンチクライスト』とか、ほんと「やめれ!」って感じです。

 ということで、ちっともファニーじゃない『ファニーゲーム』でした。今回は感想が淡白になってしまったかと思うのですが、なぜかというと、次回、「田舎ヤバいぞ」シリーズ最終章が重すぎるからです……。とある日本映画です。乞うご期待。

この映画が好きな人におすすめ:
①『セブンス・コンチネント』(ツラすぎます……。だし、残酷。)
②『ピアニスト』(ツラすぎます……。だし、すげー変。)
③『愛、アムール』(ツラすぎます……。でも、スゴイ。)
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