TS

ファニーゲームのTSのレビュー・感想・評価

ファニーゲーム(1997年製作の映画)
3.8
【救いもカタルシスも何もない】80点
ーーーーーーーーーーーー
監督:ミヒャエル・ハネケ
製作国:オーストリア
ジャンル:スリラー
収録時間:108分
ーーーーーーーーーーーー
なかなかの良作。これを良作と言ってしまう自分は気狂いなのでしょうか。ただ、史上最悪の胸糞悪い映画と名高いですが、これでもまだ緩いかもと思ってしまう自分はいかがなものなのか。今作には救いもカタルシスも何もない。ただただ胸糞悪くなり唖然とされる内容しかないのです。なので、そういう映画が嫌いな方には到底オススメ出来ません。

バカンスに来た三人の家族。そこに卵を欲しがる一人の男が現れる。男は卵を割ってしまいまた卵を要求するのだが。。

卵はともかく、要するにいきなりバカンス先に訪問してきた男二人が、この家族をひたすらいたぶっていくという話。そこには挽回の余地は一切なく、ただただ家族が悲惨な目にあうのを鑑賞者は見ないといけないのです。それだけならよくある構成なのですが、今作には良い点が二つあります。
一つは直接その暴力的な描写を見せないこと。これにより想像力が膨らんでしまい、余計胸糞悪くなるのです。特にあのシーンは秀逸。もしかしたら、、と思いましたがやはり結果は最悪でありました。
もう一つは犯人たちがメタフィクション的な発言を何度もすることです。メタフィクションとは、出演者が鑑賞者にそれが作り話であるのだと伝えること、もしくは出演者が鑑賞者に問題提起をすることであり、あくまでその中では現実であるのに鑑賞者がいるのを想定して話しかけるのですから矛盾の極みであるのです。犯人たちが冒頭に「あなたならどちらに賭けます?」と鑑賞者に言った時点で、今作が奇妙な構成であるということが理解させられます。

従って、犯人からするとこの作品で起こっていることは虚構でもあり現実でもあるのです。自分たちの気にくわないものは虚構にして、良しとするものは現実に出来るのです。これがラストに効いてきますし、これにはぶったまげましたね。まさに理不尽の極み。しかし、これは数ある映画の敵役が感じてきたことを体現したものなのかもしれません。我々はもしかしたらこの映画を通じてバイキンマンやヤッターマンのドロンボー一味の気持ちを痛感出来るのかもしれません。彼らはどれだけ作中に優勢であってもラストは必ずやっつけられます(例外の回はありますが)。まさに正義による理不尽。そういうくだりを今度は悪による理不尽として見せられただけのこと。実に痛快。単純に見ればただ胸糞悪いだけの映画ですが、よくよく考えると奥深い映画でもあります。

『ミスト』や『リミット』、『スペイン一家監禁事件』あたりを難なく観れる方からするとむしろやや緩い胸糞映画かもしれません。が、監督の制作意図を鑑みると良作と言わざるを得ない胸糞映画であります。万人にはオススメ出来ませんが味のある映画であります。
TS

TS