A8

十二人の怒れる男のA8のレビュー・感想・評価

十二人の怒れる男(1957年製作の映画)
5.0
有罪か、無罪か、、
陪審員の12人は裁判が終わった後、別室で判決を選択する。裁判後の様子からして、有罪で決まりかと皆が思っていた。
というかそもそも、みなやる気がなく早く帰りたがっている人もいれば、遊ぶ人もいるし、関係のない話をする者まで。
12人とも“人の命”がかかっている判決だというのに“あっさり”有罪に決まりかけていた。
しかし、1人の男が無罪を主張したところからこの部屋の雰囲気は変わっていく。
裁判の信憑性、弁護士の不信感、そもそも証言者たちは本当に確かな事実を目にしたのだろうか。
そういった不十分過ぎる証拠は、偏見と責任感のなさにより確かな証拠として並べられていたのだ。もちろん、それは恐ろしいことである。
ただ、自分の感情や事情、そして偏見により簡単に人の命を決めてしまうその神経の恐ろしさも際立っていた。

夏の暑い日、、連日続けられているであろう裁判で皆疲労困憊している様子は、この作品の“怒”の具合としてうまくマッチしていた。

もちろん損得ないが11対1という不利な立場にも関わらず真実、疑問を冷静に追っていく1人の男の意思の硬さは、気持ち良いくらい印象的な姿であった。

段々と形成が逆転していくなか、最後の1人は頑なに有罪を曲げなかった。
それは前半に話した“息子のくだり”が伏線となっており彼が息子の写真を破きながら“無罪”といったとき、誰もがその理由を知った。
その流れはトリハダが立つほど素晴らしかった。

最後裁判所から出ていく12人の男。あれだけ怒鳴り合い、共感し、自分の意見を意志強く話し白熱させもはやそういう一種の間柄だったような議論があったことはまるで皆忘れてしまったかのように、それぞれの行く道の方向へバラバラに帰っていくのだった。
その姿に、なぜかそれぞれの人生があるんだな。と強く感じ、異質な空間から現実の世界に戻ったというギャップはなぜか美しくさえみえた。

ワンシュチュエーション映画の金字塔なのではなかろうか。簡単に言えば“議論を繰り広げている映画”なのだが、ここから読み取れるさまざまな人間の性質が浮き彫りになっていき、彼らの本質さえ見透かしているようにも感じた。そして、最後まで飽きさすどころか興奮を覚えるこれぞ非凡な作品。

演技はみな個性が際立っており且つ自然で素晴らしいことは言うまでもない。
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