Kuuta

スーパー!のKuutaのレビュー・感想・評価

スーパー!(2010年製作の映画)
4.3
ポップなタクシードライバー。スプラッターブラックコメディ。間違いなく人を選ぶ映画ですが私は大好きです。

愛し愛される関係と人の役に立つ実感という、生きる上での二要素を示し、そのうちの前者=妻を奪われた主人公フランク(レイン・ウィルソン)が大暴れする。

幼少期からキリスト教の厳しい家庭で抑圧的に育てられたからこそ、神の啓示を(真に)受けてスーパーヒーローになれた。フランクにはそういうバックグラウンドがあるから理解できたが、仲間に加わるリビー(エレン・ペイジ)の狂ったハジけっぷり(とその結末)には良い意味で呆気にとられた。「殺しちゃいけないって知らなかったのよ!」。単なるアニオタのはずだが、結局リビーがいなければこれだけの騒ぎにはなっていないわけで…。

統合失調症にも見えるフランク。だが、彼の世界は彼の中では幸福な因果で結ばれている。世論の変化をリビーが無邪気に喜んでいたのに対し、フランクがかなり抑制的な態度だったのもそのためか。

太めのおっさんが引きの絵の中でタックル→スパナでの一撃離脱の繰り返しが面白すぎて最初は腹を抱えて笑っていたが、段々と笑えなくなってくる。

スーパーヒーローの暴力と、悪による暴力はあくまで等価であり、やたらグロいのもそれを見せるため。ダークナイトやウォッチメンとも共通するテーマだ。どれだけ人を傷付けても、信念のために行動がブレない「ヒーロー」が、狂人にしか見えなくなってくる。ヒーローの暴力と悪が本当に釣り合っているのか、その問いをかき消すかのようにフランクは人としての倫理を叫び、悪人を滅多刺しにしていく。Superは「超人」というより「過剰」なのかも。

そもそもフランクは子供向け宗教教育番組に触発されてヒーローになった訳で、神の啓示の実現の為には多少の痛みは仕方ない、というスタンスだったが、暴力を重ねるうちにその論理が破綻してくる。ジョック(ケビン・ベーコン)ももちろん悪い奴ではあるが、最初の車のシーンでは結構我慢しているし、ジョックの仲間の人間味を描いているのも意図的だろう。

主人公は平凡で、病んでいて、彼の世界の中で引きこもっている。ペットすら「ペットに申し訳なくて」買えないどうしようもない自尊心の低さ、ちょっとだけ共感。後半、自作ナイフを仕込む場面は完全にトラヴィスオマージュだ。

そんな彼の暴走の先に待つ、魂の救済。2枚しか無かったコマが、壁一面に増えている。リビーが暗闇で泣いている絵もあるが、その悲劇も含めてフランクにとっての救済であり、ウサギも飼えるようになった。

コマとコマの間の現実を見せない(見ようとしない)フランク。あれだけの事をしても逮捕されず、因果応報な落とし前も付けてくれない、カタルシス0のエンディング。客観的にはバッドエンドなのに、本人的には満足している感じが完全にタクシードライバーだし、映画という「現実から離れた一コマ」にばかりハマる自分の心にも見事に突き刺さった。やられました。85点。
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