Omizu

恋文のOmizuのレビュー・感想・評価

恋文(1985年製作の映画)
3.1
【1985年キネマ旬報日本映画ベストテン 第6位】
ロマンポルノ出身の神代辰巳末期の作品。直木賞を受賞した連城三紀彦の短編作品集『恋文』を原作としている。主演の倍賞美津子はその演技が高く評価され国内の女優賞を総ナメにした。

神代作品はロマンポルノの三作しかみておらず、普通の映画は初めて。映像が美しい、その割に全体的に退廃的。登場人物がみなまともではない。そんな特徴は本作にも引き継がれているようだ。

美術教師の夫と雑誌記者の妻は息子と暮らしている。しかし夫の昔の恋人が現われたことで奇妙な関係へと陥っていく。

最初から夫と妻のテンションがおかしい。狂っているように演技しているし撮ってもいる。白血病に冒された元恋人も一番まともそうでおかしい。

現実ではあの夫は紛れもないサイコでクズな男。そんな男のあり得ない提案を受け入れてしまう妻も正気とは思えない。終盤明らかになるが、それを知りつつもわざと言わないで結婚式までしてしまう元恋人もおかしい。

なにもかもがおかしい。画面は美しいけど、狂った大人が真面目な顔して狂言をする。非常にアンバランスで不気味な作品。

さすが倍賞美津子はダミ声を生かして必死に自分たちを正当化しようとし、結局感情が決壊してしまう。非常に上手く複雑な役を演じていた。

しかし流石に男がクズすぎてありえない。ここまでの嫌悪感のあるニヤニヤ顔で通す萩原健一はそれはそれですごいのかも。

映画としては音楽の使い方が大仰。昭和っぽい、というかお昼の2時間ドラマみたいなやけに扇情的なBGMがうるさい。

あとラストは投げやりでは。一番心に傷を負っているのは息子の優くんでしょ。かあちゃんと頑張って生きていこう!みたいな終わり方は楽観的すぎやしないか。あれだけ両親のクズ行動に振り回されて、確実に数年後にグレるよ。それだけは言い切れる。

登場人物みんなおかしい。それ故に謎の高揚感があり、現実から浮遊したような寓話性はあるかもしれない。神代監督の力量は疑いようがない、というのを確かめるだけの作品かな。

あと倍賞美津子の演技は素晴らしいです。

好きではない。でも原作は面白いのかもしれない。そう思ってアマゾンでポチらせるくらいには印象に残る作品と言えるのかも。
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