カツマ

渦のカツマのレビュー・感想・評価

(2000年製作の映画)
3.7
不気味な水面は不穏に揺れ、負のスパイラルは濁流となって渦巻く。ドゥニ・ヴィルヌーヴの初期作品だが、すでに彼のストーリーテラーとしての才能はここに爆発!先の見えない未来とそれに翻弄されるちっぽけな人間達の姿を、グロテスクな魚の姿をした何かがまるで下界を見下ろすかのように滔々と語るという偉業のナレーションはかなり印象的だ。ホラーじみた描写とサスペンスなストーリー展開がいつしか奇妙なギャップを生み、翻弄された挙句に意外にも着地をピタリと決めてみせた。やはりヴィルヌーヴはアートの人。その静止したカットに変態性と天才性を同時に感じることができました。

大女優の娘ビビアンはアパレルショップの若手経営者として注目を集める存在。だが、中絶手術とその後遺症、店舗の閉鎖など災難が次々と降りかかり、彼女は夜のクラブで酒に溺れた。その帰り泥酔状態で車を運転する彼女はある男性を撥ねてしまうもそのまま逃走。直後に男性は死亡した。罪悪感に苛まれるビビアンの精神状態は次第にレッドゾーンへと突入、彼女は不幸の渦へと放り込まれていく。

ドゥニ・ヴィルヌーヴがまだそのスタイルを確立する以前の作品だと思う。鈍く静止するカメラワークやサスペンスタッチの世界観などには彼の個性が見え隠れしているが、全体的な完成度という意味では次作の『静かなる叫び』から今のスタイルにグッと近づいた印象。それでも若きマリ=ジョゼ・クルーズを起用したりとすでに役者のチョイスは抜群で、『ボーダーライン』や『メッセージ』に繋がる女性の内面へと肉薄する描写はすでに巧みだ。
これにてヴィルヌーヴの長編をコンプリート(鑑賞可能なものに限る)できたので、早くも次の新作が待ちきれなくなってきています(笑)
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