カツマ

ヴィレッジのカツマのレビュー・感想・評価

ヴィレッジ(2023年製作の映画)
3.7
それは全て夢だった。目が覚めることのない夢。覚めてほしくはない夢。もし覚めたとしたら、きっと何かが終わってしまう。それが分かっていたからこそ、絶望は淵からぬるりと巨体を濡らした。穴の奥から音がする。壊れていく音がしている。夢は覚めるものだから、そのひび割れは治らない。瓦解したのはいつの時。舞えど歌えど仮面の下は泣いていた。

日本アカデミー賞を獲得した『新聞記者』の他にも『ヤクザと家族The Family』『余命10年』など、近作は特に高い評価と人気を獲得している藤井道人監督。彼がNetflix映画として送り出すのは、とある田舎の集落を舞台にした現代社会の闇の在処をほじくり出すような作品であった。閉鎖的な村を舞台に、そこから出ていけない者、縛られる者、出ていった者、更には戻ってきた者。様々な視点から語られる多面的なドラマである。強烈なメッセージ性は地方社会の縮図と言えるか。どこかに希望を模索するような物語が、逆に残酷な物語であった。

〜あらすじ〜

古くから能文化が根付く村、霞門村。だが、貧困に喘ぐ村は山の上にゴミ処理場を作ることで何とか立て直り、現在に至っていた。
そのゴミ処理場で働く片山優は、父がゴミ処理場に反対して犯罪を犯して自殺した、という過去の壮絶な事件を背負いながら生きてきた。母はギャンブル狂いで呑んだくれ、借金を作ってくる始末。優は昼はゴミ処理場で働き、夜はヤクザの丸岡や村長の息子、透らが指揮する不法投棄ゴミの処理へと駆り出されていた。彼の目は完全に死んでおり、希望の持てない日々が淡々と続いた。
そこへ東京から優の幼馴染、美咲が帰ってきたことで、優の日常は少しずつ変わり始める。美咲の計らいで優は村の広報を担当するようになり、美咲との関係にも大きな変化が訪れて・・。

〜見どころと感想〜

現代社会の闇の一端、地方社会の現実を絶望感たっぷりに描き出す問題提起型のドラマである。臭いものを田舎に押し付けて蓋をさせる。それが積み重なり、人々の生活はまるで何事もないかのようにまわっていく。だが、ツケを払わされている人間は必ずいる、そんな物語である。メッセージが先行しているため、それを伝えることに関しては成功している作品であった。

主演の横浜流星はかつてのアイドル俳優的な立ち位置から脱却し、徐々にストイックな役者へと変貌してきている。今作でも憔悴しきった演技から爽やかな演技まで巧みに使い分けており、説得力のある演技力には確かな年輪と積み重ねを感じる。他にも演技力の高い役者を多数揃えており、黒木華、杉本哲太、古田新太など、演技派がズラリと顔を揃える布陣は圧巻。そんな中でも特にインパクトを残してくるのは、『黄龍の村』とはまた全く異なるテイストで、胸糞映画の雰囲気を担いまくっている一ノ瀬ワタルだろう。一ノ瀬は武闘派のイメージは強いが、粘着質な役も合うためこのキャスティングは抜群だったと思う。

メッセージを伝えることに軸足を振りすぎたか、どうにもラストの落としどころには違和感を感じてしまった。この設定とキャストなら、もっとインパクトを与えてくるクライマックスが作れたはず。それだけに勿体なさはかなり募った。とはいえ、現代社会の闇を地方行政を舞台に描く、という試みは見事に映像化されており、あと一歩のところまで来ている悪くはない作品として、記憶にストックされることとなりました。

〜あとがき〜

『黄龍の村』が蓋を開ければ集落映画ではなかったので、こっちこそ本当の集落映画だ!と思って鑑賞しましたが、思いのほか社会派映画でしたね。強い意志と野心を感じる作品だと思います。

最後だけが惜しかった。とにかく惜しかった。もう少しひねれたのでは?と思いました。横浜流星はとてもいい役者さんなのだなと再確認できたのと、一ノ瀬ワタルは今後、色んな作品に出てピエール瀧あたりのポジションを脅かしてほしいなと思いました。
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