カツマ

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のカツマのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.2
日本の原風景の奥の奥。そこにあったのは、閉鎖的な慣習と人間の業の吹き溜まり。醜く哀れな者たちは、妖怪以上に成仏できない亡霊なのか。追い縋る過去、タバコの煙のように霧散する未来。ユラユラと漂うように二転三転する死の連鎖が、巨大な悪の存在を浮き上がらせた。これはすでに起こった悲劇と、そして、鬼太郎の誕生へと繋がっていく物語。

今作は2018年にアニメシリーズとして97話という長いクールにわたって放送された、ゲゲゲの鬼太郎第6期の劇場版である。ストーリーは鬼太郎の誕生までの物語を描いており、目玉のオヤジがまだ親父ではなかった頃が舞台となる。戦後のおどろおどろしい山村に蔓延る慣習と殺人事件。その犯行は人間の手によるものか?それとも妖怪の仕業なのか?まるで犬神家の一族を観ているかのようなデジャブ感。その恐るべき末路は村全体を呑み込み、混乱へと陥れていった。

〜あらすじ〜

新聞記者の山田は今は廃村となっている哭倉村の廃墟を訪れていた。彼は雑誌の取材のため、どうしても村に隠された秘密を手に入れたいと思っていたが、そこに鬼太郎たちが現れ、山田にすぐに帰るように促した。かつて哭倉村ではある出来事が起こっており、目玉の親父はその事件に大きく関わっていた。その惨劇とは鬼太郎が産まれる前へと遡り・・。
時は1956年。東京の銀行に勤める水木は、社運をかけたある仕事を胸に哭倉村を訪れていた。その仕事とは、哭倉村の当主、龍賀時貞の死によって、後継者に指名されるであろう龍賀克典に取り入るため。水木は元々、克典とは懇意の仲でもあった。だが、事態は時貞の遺言状により思わぬ方向へと向かう。なんと次期当主に指名されたのは克典ではなかったのだ。指名されたのは引きこもりのため当主の候補ではないと目されていた龍賀時麿。それによって、村は跡目争いを含めた大きな混乱の渦に叩き込まれ・・。

〜見どころと感想〜

今作は水木しげるの生誕100年記念作品として製作されており、ストーリー自体は水木原作の墓場鬼太郎に繋がるまでの出来事を描いている。ゴール地点が決まっているもののそこまでに至る順路はオリジナルストーリーとなっており、水木作品を現世で拡張した試みとも言えそうである。
大筋は閉鎖的な山村を舞台にしたミステリであり、古き日本のミステリの恐怖を彷彿とさせる。それだけに鬼太郎シリーズにしては大人向けのホラー描写があり、なかなかにグロくて胸糞。PG12指定も納得の内容となっている。

鬼太郎や猫娘らの声の出演は第6期をそのまま踏襲しており、現代パートの目玉の親父の声も野沢雅子が担当している。過去パートの目玉の親父の声は関俊彦が担当し、ダブル主演の水木役には木内秀信と、同じく1962年生まれのベテラン2人の安定感を楽しめるだろう。ガンダム好きとしては嬉しい?飛田展男が怪しげな役柄で登場。石田彰も敵キャラとして地味ながらもキャスティングされている。

鬼太郎は元々、妖怪を現代社会の写し鏡として機能させている例が多く、過去作にも皮肉で胸糞な描写は数多い。今作でもその側面は非常に強く、俗物による完全なる悪の所業の正当化が行われている。あまりにも哀しくてやるせない物語。サスペンス要素も強く、犯人当てミステリとしても楽しめるだろう。エンドロールの先までも物語は続く。その先に待つ未来で鬼太郎はどのように誕生したのか、暗鬱とした場所で確かに生命は息づいていた。

〜あとがき〜

この作品も劇場で観たい!と思っていましたが、育児のため断念。それでもこうして早い段階で配信で見られたのは幸運でした。鬼太郎は第6期も甥っ子と一緒に毎週観ていたので、この映画の世界観にもすんなりと入れたと思います。

それにしても内容は超胸糞。大人向けのホラー映画を作りたいという志は見事に実現されていて、特に後半部の恐怖は鬼太郎シリーズでも屈指のおどろおどろしさでした。その出来は日本アカデミー賞にもノミネートしたのも納得。閉鎖的な集落系の作品が好きな人にもオススメの作品でした。
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