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小さな恋のメロディのkumaのレビュー・感想・評価

小さな恋のメロディ(1971年製作の映画)
3.5
浅井健一はこう歌った。
「小さな恋のメロディという映画を見たことがないなら早く見たほうがいいぜ」「行くあてはないけど ここにはいたくない 幸せになるのさ 誰も知らない 知らないやりかたで」
大槻ケンヂはこう歌った。「ねぇ 二人はさぁ トロッコに乗って 逃げてくの ラストシーン」「あのふたりが どこへ行ったか あなたわかる? きっと地獄なんだわ」

BLANKEY JET CITYや筋肉少女帯が同名のタイトルでこんな風に歌っていたもんだから、映画はこれに輪をかけてペシミスティックで、多分ロミジュリ的な悲劇映画なのだろうと勝手に想像していたのだけど、実際に見てみたら意外と明るくてびっくりした。随所に挟み込まれたビー・ジーズの挿入歌のお陰もあるとは思うが、終盤の展開は完全にスラップスティック・コメディで、ラストはモンティ・パイソン味も感じる

とはいいつつも大筋はピュアなラブストーリーであり、確かにこれは早く見たほうがいい映画だと思う。早くというのは年齢的な意味で、これを10代の悶々とした時期に見ていたら、なかなか告白が出来ない奥手なダニーにヤキモキしただろうし、メロディの悲痛な叫びに共感しただろうし、初々しい遊園地デートには憧れただろうし、彼らの恋路の邪魔をする大人たちに辟易し、ラストシーンで二人だけの幸福になれる場所を目指してトロッコを漕ぎ出す姿に感動したかもしれない。

しかし大人の立場になってから見てみると、悲しいかな大人たちにも平等に感情移入してしまい、受ける印象もちょっと変わってくる。そもそも、この映画に出てくる大人たちにはみるからに悪人らしい人物がいない。先生も親も厳しかったり過保護だったりと思春期の少年少女にとっては自由を邪魔する障壁になってはいるが、決して露悪的ではない。極めてリアルな大人像が描かれている。人生の悲喜交々を知ってしまい、もう純粋ではいられない者の象徴として「大人」が描かれている。だからこそ一番グッときたのは、メロディがダニーとの結婚を認めて欲しいと両親に訴えるシーンで、今まで口煩かった母親と祖母が口篭ってしまう部分だった。二人ともメロディの気持ちは痛いほど分かるが、でも現実社会はそこまで甘くない。肯定も否定も出来ないあの表情のカットはとても良かった。

この映画は日本では大ヒットしたものの、本国イギリスやアメリカでは不評だったらしい。確かに映画としてはストーリーに起伏が少なく、ドラマティックな展開があるわけでもない。異国情緒あふれる映像と幼く可愛らしい少年少女のプラトニックなラブストーリーという、日本人好みの要素がヒットした要因なのではないかと思う。
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