亘

憎しみの亘のレビュー・感想・評価

憎しみ(1995年製作の映画)
4.0
【最悪の着地】
パリ郊外の町。ヴィンス、サイード、ユーベルの3人若者は日々に退屈しながら暮らしていた。警官による移民の若者アブデルへの暴行に対し、パリで暴動が起こるとその翌日警官の拳銃を発見、そしてパリへと向かうのだった。

『レ・ミゼラブル』(2019)同様パリ郊外の移民の若者たちの不満と憎しみの連鎖を描いた作品。ある若者が警官に暴行され・・・という背景は『レ・ミゼラブル』と似ているが異なるのは本作中では暴動が起こったりしない点。警官に対する不満が高まっている空気感は漂いつつも、3人の若者の日常を映し続けるのだ。

そして本作はこんなセリフから始まる。「50階から飛び降りる男は、落ちながら自分に言い聞かせた。ここまでは大丈夫、ここまでは大丈夫・・・。死ぬのは落下ではない。着地だ」悪い方向へと向かっているだけでは問題が起きない。それが何かと衝突した時に問題が起こるということである。本作の3人はいわばチンピラで毎日仲間たちとつるんで過ごし、時には問題行動も起こす。徐々に悪い方向には向かってそうだけど、それだけでは何も起きない。何かに対峙した時、そして衝突した時にラストシーンのような悲劇が起こる。本作はまさに落下~着地を描いているのだ。

パリで警官が移民の若者アブデルを暴行し重傷を負わせ、若者たちは警官への不満から暴動をした。そして警察への不満が漂う中、仲良し3人組ヴィンス、サイード、ユーベルはいつも通りにつるむ。アパートの屋上で不良仲間たちと集まってホットドッグを食べたり、公園にたむろして会話したり、ただ屋上には警官たちが来るし、公園ではインタビュー目的のTV局が来るしで落ち着かない。その後も3人は町をうろついては場所を見つけてたむろする。

きっと彼らはやることがないのだろう。3人でずっと行動して口げんかいて仲間割れしても結局また3人で集まる。それぞれ家庭は生計を立てるのにも苦労しているようだし、勉強もできない。そして他の似たような若者グループとつるみ、警察を見れば自分たちを目の敵にしている恨みに攻撃をする。

やはり彼らは警察含め周囲から白い目で見られがちなのかもしれない。パリ市内へと移動してからは警察に目をつけられてサイードとユベールは警察に捕まり取り調べを受けてしまう。この警察の態度もまた傲慢で反感を持たれるようなものだし新たな憎しみを生んでしまう。さらにギャラリーでは女性にナンパするも冷たい態度を取られて激昂してしまう。
結局彼らは閉じたコミュニティでしか生きられないし暇を持て余し続けるのだ。3人で夜の街を歩き回り続ける。そしてパリの不良と絡む。夜の街を眺めながらの会話などは青春映画っぽくもあるが、どうしても閉塞感を感じてしまう。

そしてラストシーン。彼らは郊外の町に戻り家へ帰ろうとする。そんなところで警察と会い最悪の結末を迎える。冒頭のセリフに沿って言えば、これは"死に至る着地"。ただそれがあまりにもあっけないのが意外だった。とはいえ実際の"着地"というのはこういうものなのかもしれない。そしてこんなあっけなく憎しみがまた生まれ連鎖するのだ。だれも望んでいない結末とその後続くであろう憎しみにやるせなくなってしまう作品だった。

印象に残ったセリフ:「50階から飛び降りる男は、落ちながら自分に言い聞かせた。ここまでは大丈夫、ここまでは大丈夫・・・。死ぬのは落下ではない。着地だ」
印象に残ったシーン:ユーベルとサイードが夜のパリで話すシーン。警察とユーベルが対峙するラストシーン。
亘