村有徳

花とアリスの村有徳のネタバレレビュー・内容・結末

花とアリス(2004年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

3年ぶりくらいに再鑑賞。サントラはずっと聴いていたので、「この音楽ってこのシーンで流れるのか〜」「ウヲアイニってここで流れるから『ウヲアイニ』なのか〜(当たり前)」とか思ったりした。

3年前なんとなく観ていたために気づかなかったことに、今回の鑑賞で気づくことができたのがよかった。

例えばアリスがまーくんとのデートを父親との思い出と重ね合わせていることととか。これは彼女の演技の練習も兼ねていて、最初は下手くそだった演技も父親との思い出と重ね合わされることでリアリティを持ったものになっていく。そうやっていくうちに本当にまーくんのことが気になってきてしまうけども、それを恋とは認めることなく花との友情を優先してただ「ウヲアイニ」と相手には分からない言葉で気持ちを伝えて別れるのが良い。多分これは本当に愛してるってことを言いたかったのではなく「ウヲアイニ」という記号というか、矢印を伝えたかったんだと思う(伝われ)。

あとこれは編集がいいなと思ったところで、アリスが父親に「ウヲアイニ」つって別れた後、父親のいた方向(電車の進行方向の逆)を向き続けるアリスのカットに父親が時計を見た後歩いていくカットが挟まれていて、これがアリスから父親への深い感情を強く意識させているなぁって思いました。
父親はメールを使えるようになっていることからアリスに「やらしい!」と言われていますが、これも今回で「おそらく父親には若い恋人?愛人?もしくは別の娘?がおり、その人からメールを教えてもらった」というアリスの想像から来ていたということをやっと理解できました。遅い。
なので父親にとってアリスは勿論特別な存在なんだけど、アリスとは全く関係のない別のコミュニティに属しているのでアリスだけが特別なわけではない、だからアリスと別れた後、アリスが行った方向(電車の進行方向)を見るわけでもなく、すぐ意識がそのコミュニティに向かっている。ふたりのお互いに対する感情の矢印の大きさに、明らかな違いがあることが表現されているシーンなのかなって思いました。さみしいけどね。
で、その父親の喪失を埋める存在となるのが突如として現れた元カレ、まーくんで、アリスは彼を利用する形で自分と父親の思い出の輪郭をなぞり、その存在を確認していっているのだと思います。結果としてまーくんがかつて父親と行った海で無くしたハートのAを見つけてくれたため、その思い出が確かに存在したことを証明することができ、アリスは泣いたのです。
ここまで証明できればもうアリスにはまーくんを父親と同一視する必要はなくなるので、彼女はまーくんと離れることを選択できたのでしょう。それと同時に、演技の実践練習も終わります。

ここで考えたいのが、作中においてアリスが「演じされられている人」として描かれていることです。
例えば「宮本先輩の元カノ」だったり、カフェでは「隣に住んでる花ちゃん」だったり、家庭における「母親」の役割だったり、「新人女優」としてのオーディションだったり。これって全部、アリスが自分から望んで演じているものではなく、周囲に求められて演じているものなのです。
そんな受け身のアリスが、次第に能動的に演じるようになるのが「宮本先輩の元カノ」という役で、アリスはその過程で「ウヲアイニ」という感情に出会います。この段階でアリスは自己実現を果たしているように思います。その感情で満ちていたからこそアリスは、最後オーディションで自ら志願してバレエを演じることができたのです。

映画って見るたびに色んなことに気づけて素敵だな〜って思いました。今度は花の方にも注目してあげたいです、
村有徳

村有徳