シュローダー

ベルリン・天使の詩のシュローダーのレビュー・感想・評価

ベルリン・天使の詩(1987年製作の映画)
4.8
天使と人間 或いは、東と西か。この映画は"壁"なんか無い世界のための福音書だ。そう思えば思うほど、この映画が実に愛おしく感じてならない。子供にしかその存在は見えない"天使"は、人々の行動を記憶し、落ち込んだ人間の肩を抱き、希望を鼓舞する存在である。天使の一人であるダミエルは、ある日天使の羽を付けて空中ブランコを舞う女性 マリオンに恋をする。そこから、彼は人間となって、彼女と添い遂げようとするが…
この映画程、全てのディテールが詩的で美しい物は無いだろう。前半部。色も味覚も寿命もない世界を生きる天使の視点を、モノクロ映像とカッティングを抑えた編集で見せていく。この映画の最後に「全てのかつての天使、特に安二郎、フランソワ、アンドレイに捧ぐ」という字幕が出る。勿論これは小津安二郎 フランソワトリュフォー アンドレイタルコフスキーの事であるが、奇しくもこの3者の映画を体現するかのようなシーンが続いていく。特に好きなのは、オープンカーでの問答からの、図書館のシーン。図書館が天使の溜まり場になっているという設定は、彼らが「記憶者」であり「語り部」であるが故であるからだ。流麗に動くカメラも非常に心地良い。そして後半。徐々に明らかになっていくこの映画のメインテーマ。即ち、ホメロスという老人が象徴する「過去の豊かなベルリンを生き、死んでいった者たち」そして、作中を通して引用されていく、ヴァルターベンヤミンの文と、彼の人生。そして、クライマックス。観客である我々に歴史の変革を、「決断」を迫るあの長台詞。これらから導き出される人生賛歌は、非常に力強く、胸を打たれる。僕のような人間が人生を空費しているのを、非常に申し訳なく感じてしまう。だが、僕の隣にも、天使は居るのかもしれない。幻想という名の希望によって救われる事こそ"映画"の魔力であると思う。そういう意味でも、この映画程"映画的"な映画は無いのではないだろうか。観て時間が経つ程に評価が上がっていく傑作。