かず

ベルリン・天使の詩のかずのネタバレレビュー・内容・結末

ベルリン・天使の詩(1987年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

第二次大戦直後のベルリン。街の一部は廃墟と化し、瓦礫の山が積まれている。
市井の人々は、戦争の後遺症から、親しい人を失い、貧しく、苦しんでいる。そんな市井の人々を見守る天使。天使たちは、苦しむ人々の心の声を聞き寄り添うが、現実世界に干渉できないため何もできない。

主人公は、無力な天使の一人ダミエル。ダミエル含む天使たちは、そんな無力さと世界の何物も実感できないことに苦しんでいる。

天使の視点と人間の視点をモノクロとカラーで分けるのも良い。天使は現実世界に干渉できないため色を認識できないことを象徴しているようで巧いと思った。
もしかして、『Better Call Saul』のカラーとモノクロの使い分けは本作のオマージュか?
『ローマの休日』と同じ撮影監督アンリ・アルカンの撮影が素晴らしく、とくに図書館内のカメラワークがダイナミックで良い。

天使ダミエルと人間のラブストーリーに帰着するが、本作を観るとそれは何かを象徴しているよう。個人的には、東西に分断されたドイツを天使と人間に象徴させ、2人が結ばれることでドイツ統合の希望を描いていると感じた。
何もできなくても、ただ隣に寄り添ってあげる天使のような人の優しさは、この世界に必要不可欠だ。

コロンボってベルリンでもこんなに人気あるんだ。



2回観たけど、本作は観ただけではわからないことが多すぎて降参。

リルケの詩集「ドゥイノの悲歌」の引用や、本作の精神的支柱となっている思想家ヴァルター・ベンヤミンの『Story Teller』(邦題『物語作者』)とクレーの絵画「新しい天使」に着想を得て著された『歴史の天使』の引用と、本作の関連性、そして図書館の老人ホメロスの重要性については、下記動画を参照。
なぜ天使はベルリンにいるのか?なぜ図書館が天使の溜まり場になっているのか?ヴェンダース監督が考えたその理由と裏設定は、観ただけでは絶対にわからない。
めちゃくちゃ勉強になるし、ここまで深い作品であることに驚いた。作品以上に観た後に調べることの方が知的好奇心をくすぐられて楽しい。
ベンヤミンの言う、歴史に埋もれてしまう普通の人々に対する優しい視線が素敵。

https://youtu.be/vw6wQfCa5Jw
https://m.youtube.com/watch?v=2AkcJHJtgI4

・歴史の天使:ベンヤミンの歴史意識
https://philosophy.hix05.com/Benjamin/benjamin08.angel.html
→"歴史の敗者たちは、…歴史のプロセスで淘汰され、いまある現在には殆ど痕跡を残さなくなっているから、彼らの立場に立った歴史の見方は当然引き継がれない。彼らは歴史の闇の中に消えてしまっているのだ。だが、果して消えたままにしておいてよいのか、というのがベンヤミンの問題意識としてある。"


https://www.google.co.jp/amp/s/cinefil.tokyo/_amp/_ct/17309726
本作の脚本家ペーター・ハントケは、2019年にノーベル文学賞を受賞している。
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