倉科博文

愛のむきだしの倉科博文のネタバレレビュー・内容・結末

愛のむきだし(2008年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【総評】
誰しも、人から誤解され、辛い思いやもどかしく悔しい思いを抱いた経験があるのでは無いだろうか
逆の立場で、ひょっとしたら、自分だって他人への理解が及ばず、誰か他人を間違って認識することでその人を傷つけていることもあるかも知れない・・・
この映画を観終わった後、そんなことを考えて深く内省するきっかけになった
とにかく心を動かされ、自分の価値観や現実への認識力を再確認させられる作品

作品に通底するのは、「何かを信じること」への徹底的な批判、という題材
それは、もちろん直接的な作品のモチーフである「新興宗教への帰依」にも当てはまることだが、それだけではなく、我々が生活している日常にも様々な形であり得ることが、作品中で副次的に表現されている

自ら陥る錯誤、他者から受ける欺罔、もしくはそれらの組み合わせなどにより、我々が目にし、信じているものが本当に真実であるのか、それを問い直すきっかけにもなるのでは無いだろうか。
そして深く作品を理解することで、目に見える現実を疑う姿勢と他者を深く理解しようという行為・態度がインストールされるように思う

そして何より、このテーマを持つ作品を、スリリングな娯楽作品として仕立て上げた園子温監督の手腕に脱帽

【俳優】
安藤さくら演じるコイケが、掴みどころの無いこの女優の雰囲気と相まって、とても恐ろしく表現されている
そして、西島隆弘演じるユウと満島ひかり演じるヨーコの痛々しいばかりの無垢さが、現実を「素直」に認識してしまう危うさを描き出している

【構造】
ヨーコがコイケに洗脳され、しかしユウの身を捨てた愛により現実に引き戻されるまでの過程が生々しく描かれるが、これだけもどかしく、かつ恐ろしく、何かに心酔することの危うさを描くには237分は必要だったと納得

また、盗撮や勃起により、「愛への渇望」や「真実の愛」を表現するという皮肉にも思わずニヒルな笑いが滲んでしまう

【構成】
「欺罔と錯誤によって心を乗っ取られた少女が少年の愛により救われる物語」とでも言えようか
そういう意味では、白雪姫と同プロットとでも言えるのかも知れない

ヨーコやその家族までもが、コイケの洗脳にドンドンと嵌っていき、ユウが追いかけるほどにその距離が開いていく描写には、思わずスクリーンに心が引き寄せられ釘付けにされた
しかも、そういった高尚かつシビアなテーマを扱っているにも関わらず、アクションシーンもキレが良く、お色気シーンの配置も絶妙なため4時間弱があっという間に感じるのはさすが

————————
第9回東京フィルメックスアニエスベー・アワード
第59回ベルリン映画祭カリガリ賞および国際批評家連盟賞受賞
『映画芸術』2009年日本映画ベストテン第1位