倉科博文

帰ってきたヒトラーの倉科博文のレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
3.5
プロットの読みやすいコメディという一面がありつつも、思わず引き込まれてしまうヒトラーの演説ぶりには感心させられてしまう

クリーニング店にて下着を洗わせようとする件やその後のシークエンスは誰でも分かるレベルで面白いし、mytvでようやく局長になれたゼンゼンブリンクが視聴率悪化で苦しむ首脳陣会議シーンでのパロディっぷりには思わず吹き出してしまった
「ヒトラー〜最期の12日間〜」との構図の見事な一致っぷりったらない

その一方で、コメディ風の軽快さで見せていながらも、犬を撃ち殺すシーンは背筋の寒くなるヒトラーの潜在的な狂気を感じさせてくれ、心が揺さぶられた

そして、この映画での見せ場の一つがTVのバラエティ番組”Krass, alter!”に初出演した際の演説シーンだろう
これには息を呑んだ

そして、徐々にヒトラーの邪悪で巨大なカリスマ性に毒されて行く大衆ー
そして、最も傍でヒトラーを見ていた主人公が徐々にその恐ろしさに気付いていく過程ー
ヒトラーに支配されて行く「現実世界」と、病院や精神病院での真っ白な空間演出の対比が恐ろしさを引き立てていたように思う

コメディの中にスパイスや社会風刺も効いていて、とても面白い作品だった

なお、現在は2022年2月ー
国も時代も変わるなかで、中国やロシア周りの情勢がきな臭くなってきたこの時節、ロシアに対して弱腰なドイツや、中国に弱腰な日本を見るにつけ、国力が弱体化していくことによる閉塞感が、また過激な思想と結びつく契機にならないことを願うー