亘

タレンタイム〜優しい歌の亘のレビュー・感想・評価

タレンタイム〜優しい歌(2009年製作の映画)
4.7
【様々な違いを越える融和の音楽】
多民族国家マレーシア。ある高校でタレンタイム(音楽コンクール)開催が決定した。民族や宗教、言語(手話含む)など全く異なる背景を持つ人々がタレンタイムを軸に重なり合う。

タレンタイムを軸に高校生やその周囲など様々な背景を持った人々を描く。生徒たちの背景はバラバラ。主な登場人物は、
ムルー:マレー系、ムスリム、父はイギリス・マレー系でメイドは中華系。ピアノ演奏。
マヘシュ:インド系、ヒンドゥー、聴覚言語障害。発表者送迎。
ハフィズ:マレー系、ムスリム、学業優秀。ギター演奏。
カーホウ:中華系、富裕層、親から学業1位という至上命令を出される。二胡で「茉莉花(ジャスミン、マレー語ではムルー)」を演奏。
で、彼らの家族も含めた話が組み合わさった群像劇。初めはバラバラに見えるが、途中からそれぞれのストーリーが重なり融和する。ところどころクスっと笑えるポイントがあるのも良い。

学生たちは、普段から学校で互いに接しているからかそれほど相手との違いを気にしていないように見える。だから他の民族とか違う言語を話す相手でも受け入れる。逆に言えば相手をそれほど知らないからこそ表面的なことで争いになることもあって、例えばカーホウはハフィズの転入のせいで学業2位になってしまい親からぶたれる。様々な家庭を見せられて多様性は感じるけど、序盤はまだ互いのことを深く知らずにやり取りしているように見える。

しかしタレンタイムが開催されることで、出場者同士や出場者と送迎者という関わりが生まれ相手をより知るようになる。ハフィズは自作の歌とギターの弾き語りで才能を見せ、カーホウは二胡の美しい音色を奏でる。それでも2人はまだ敵対している様子。そしてムルーは送迎担当のマヘシュに興味を持つ。当初マヘシュが何も話さないことに怒るが、彼が聴覚言語障害だと分かると彼に謝り2人は一気に親密になる。これは今作1つ目の融和だと思う。

学生たちの背景をみると実は苦難や偏見がある。ハフィズは、家族が母しかいないけどその母も脳腫瘍で入院中。彼は頻繁にお見舞いに向かう。母を想うハフィズの献身性は感動的で2人の会話は泣きそうになる。マヘシュは父がいなくて叔父も死んでしまう。その叔父には隠された過去があった。またマヘシュの母は障害を持った息子の交際には反対だし、ムスリムに嫌悪感を抱いている。ムルーの家庭はみんな楽しそうだけど母親は厳しめ。イギリス在住の祖母は中国人に対して偏見を持ってる。カーホウは成績1位じゃないと親にぶたれる。そんな大人たちの影響を受けたのか学生たちの間にも少し溝ができてしまっていて、カーホウは成績トップの転校生ハフィズとは冒頭から険悪ムードだった。マヘシュとムルーは、マヘシュの母から会うのを禁止される。

でもタレンタイム本番は、そんな壁をなくす融和のイベントだった。マヘシュとムルーは寄り添い、カーホウはハフィズの不幸に同情しハフィズに寄り添う。インド系の学生が踊る音楽には「偏見に満ちた世界が僕の敵」とあるし、冷戦状態だったカーホウとハフィズのアンサンブルは、二胡とギターが柔らかくマッチするまさに融和の音楽。大人たちには対立があるかもしれないけど、学生たちは様々な違いを乗り越えて融和する。その姿には未来への希望が感じられた。

印象に残ったシーン:ハフィズが母の見舞いをするシーン。ムルーがマヘシュとバイクに乗るシーン。タレンタイム当日カーホウとハフィズがアンサンブルをするシーン。

余談
・Spotifyにはハフィズがタレンタイム本番で歌った"I go"のマレー語版"Pergi"があります
・タレンタイム(talentime)は、マレーシア英語です。元々は"Talent time"で「タレント(才能)を披露する時間」の意味です。
亘