青山祐介

バラ色の人生の青山祐介のレビュー・感想・評価

バラ色の人生(1948年製作の映画)
3.0
わざわざ映画館に行って観ようとしたわけでもなく、どんな映画であるのかも分からずに、ただ、なにげなく観た映画が、いつまでも心の奥に残って離れなくなることがあります。まるで行きずりの恋のように。若い頃、テレビ放映でみた映画が「バラ色の人生」です。
フランスの片田舎、ある寄宿制中学校教師の白昼夢と現実、愚かで滑稽な、哀しい恋の思い込みの物語です。
先日、題名への共感から購入した川本三郎「ギャバンの帽子、アルヌールのコート ― 懐かしのヨーロッパ映画」(春秋社2013年)の冒頭に、この映画が取り上げられていました。
物語や美しい映像は覚えていましたが、その他のこと、監督、脚本、台詞、出演者などについて、はじめて知ることができました。それだけでなく、いままで主演のテュルローはルイ・ジューヴェが演じていると思い込んでいたことも分かりました。ルイ・ジューヴェの年譜をあたって、この映画を探したこともあります。なぜそのような思い込みをしたのでしょうか。おそらく、ルイ・ジューヴェに、この役を演じてもらいたかった、いや私の記憶の中ではすでに演じていたのだと思います。ルイ・サルーの教師はあまりにも純真すぎて、その純真さに我慢がならなかった。私はそれを信じることができなかった。人生の真実を皮肉なまなざしで見つめるのは、あのなんとも言えないルイ・ジューヴェのギョロ目であってほしかった、「バラ色の人生」は、ロマンティックな悲哀ではなく、とことん喜劇にしてほしかった、一番厄介な年頃であった私が勝手に作り変えた映画であったのです。ルイ・ジューヴェならば、白昼夢も違ったものになります。
私のことはともかく、忘れることのできない、「うまい」フランス映画だと思います。観ることができないのが残念です。
川本氏の本には「バラ色の夢を一度でも見ることが出来たのだから決して不幸ではない」とありますが、それではあまりにも人生は寂しすぎます。
青山祐介

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