Kuuta

狩人の夜のKuutaのレビュー・感想・評価

狩人の夜(1955年製作の映画)
4.0
これは不思議な映画だ…。「羊の皮を被った狼」、連続殺人鬼ハリー(ロバート・ミッチャム)から逃げる兄妹を主役としたダークファンタジー。

基本的には善なる信仰が悪を倒すストレートな話なのだが、随所に善の曖昧さや悪の真っ当さを示唆するような描写が挟み込まれており、観賞後もどうも居心地が悪い。

なお、ストーリーを無視したとしても、十分な傑作であることは間違いない。モノクロの映像美、キメキメの構図と照明、テンポの良い編集で、印象的な場面を挙げればキリがない。川底の死体や、ボートで川を下る幻想的な映像。地下室の陰影も素晴らしいし、家の外で待ち構えるハリーの歌に合わせて、善性の象徴のはずのレイチェル(リリアン・ギッシュ)が同じ歌を口ずさむ場面にも鳥肌。彼らは同じものに寄りかかっている…。

常に誰かに見られている緊張感。序盤の空撮、天に向かって話しかけるハリーに対する神の目線。妻を失った釣り人は遺影と話し続け、子供たちはハリーの目線に追いかけられる。

処刑人が帰宅するとまず水で手を洗う、レイチェルの自宅にはコンロや暖炉(統御された怒りの炎)など、細かな演出も充実している。

ハリーの不気味さが今作の肝だろう。セックスを拒む彼は女にナイフを突き立てる。狂った殺し屋ではあるが、ちょいちょい小物感を醸し出して笑いを取ってくる不思議な存在感だ。案外、教会を建てたいという彼の動機は本物だったのかもしれない。

彼はLOVEとHATEを使い分ける。人々の信仰に対する盲目を逆手に取り、聖職者だと身分を偽って犯行を続ける。信仰はひっくり返せば罪となり得る。

そうやって信仰の危うさを問い続けたにも関わらず、ハリーすら赦そうとする主人公ジョンの姿勢にはかなり意表を突かれた。ここに来て信仰を貫くかと。父を失うトラウマや、汚い金への罪悪感の発露だろうか。あるいは善悪両面ある大人と、純粋な子供という対比?

そのままシーンはクリスマスの季節へ雪崩れ込むが、ジョンと対照的に暴徒と化した人々は、ガンガン怒りの炎を燃やしているという皮肉。このシーンの撮影も見事だ。最後は取ってつけたようなレイチェルのお説教で終わるが、直前のジョンからの林檎のプレゼントの意味が良くわからず。ヴィクトル・エリセとか観ても思うが、子供目線の寓話って難しい…。もちろん一度で理解出来ないからこそ面白いのだけど。とりあえず80点。
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