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トガニ 幼き瞳の告発のRAYのレビュー・感想・評価

トガニ 幼き瞳の告発(2011年製作の映画)
4.0
涙のひとつも出てこなかった。

この作品に何の感動も無いからではなくて、ただひたすら怒りがすべての感情をかき消してしまう様な。


人間は誰しも確かに平等なのだけど、子どもだけは特別な存在だと思っている。
彼等はその“人間”を形成する段階にあるから。
夢も希望もすべて彼等の手の中にあって、それらを長い年月をかけて育て、現実にして行く。
純粋で、無垢で、これからと言う時間の中で自分の色を見つけて行く。
大人に未来がないと言うことではなくて、大人の見ている景色と子どもたちの見ている景色は違うと言うこと。
子どもの頃に見たものがあって、大人になった今見えることがある。
と言うか、こんなことをわざわざ書かなくても、大人の頭にはそのことが常にあると信じていた。
だけど、この映画を観ると「あぁ、そうじゃないんだ」と思わずにはいられない程、ショッキングな内容になっている。


映画のことを書こうと思う。
主演のコン・ユさんが原作の映画化を申し出たことで、映画化が実現した本作。
その後、この映画の影響によって“トガニ法”が制定されることになりました。
映画の役割として、この様な大切なことを扱い、訴え、人を動かし、世の中を動かすと言う一面が再確認されたことはとても重要だったと思います。
そう言う意味でも、この作品は多くの方に是非観て頂きたい作品でもあります。

ただ、心に刻むべきはそれだけではなく、この作品が伝えるもう一つのメッセージだと思います。
劇中に重要な台詞があります。


“私たちの闘いは、世界を変えるためでなく、世界が私たちを変えないようにするためだと——”


僕等は生きていく上で、何に関わることもなく過ごすことは出来ません。
生まれる為には産む人が必要だし、言葉を話す為には学びが必要です。
冒頭に書いた様に、無いと信じたいけれど悲しいことに世の中に悪は存在している。
知らず知らずのうちにその悪に取り込まれることもあるのかもしれない。

そうさせない為に、そうならない為に出来ることは、悪を悪とすることだと思います。
見て見ぬふりをするのではなく、悪いことは悪いと正すことが必要なのだと思います。
それが簡単でないことも理解出来るけれど、それが出来るのが大人なのではないでしょうか。
せめて、子どもたちには平穏に健やかに育ってもらいたい。
せめて、障害や持って生まれた以外のものが彼等を苦しめないで欲しい。
勝手に彼等の世界を変えないで欲しい。
彼等がつくる世界の邪魔をしないで欲しい。


尊敬する部長のレビューには『レ・ミゼラブルの序文が思い起こされた』と記されていたけれど、その通りだと思う。
この映画にあったのは、たったひとつの事件だけではない。
人間や社会の本質がまざまざと描かれていた。


確かめるべきは映画の役割だけではないはずだ。
それは大人の役割だ。
それは人間の役割だ。
それは社会の役割だ。


もっと早く観るべきだったと思う。
RAY

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