Nana

ライアンの娘のNanaのレビュー・感想・評価

ライアンの娘(1970年製作の映画)
4.0
独立運動に湧くアイルランドでイギリス人将校と地元の教師の妻とのスキャンダルを描いたヒューマンドラマ。
映像美といろいろなメタファーで3時間があっという間に過ぎました。

ストーリーはそれほど凝っていないと思うのですが…
ライアンという街の酒屋のおじさんからプリンセスと呼ばれて溺愛されているローズ。
夢見がちな性格で、知的でかなり年上の教師に猛烈アプローチして結婚。
しかし満ち足りているはずなのに何か物足りない思いを抱えている。
そんなある日、怪我をして半ば療養に来たイギリス将校に会ったローズは、彼の陰のある姿を見て一瞬で恋に落ちる…

この2人の不倫のシーンが美しくエロい。ローズと夫の初夜のシーンの微妙な空気と対照的。
将校が戦争でPTSDになっていて時々ヤバくなるのですが、50年前もそういう心理描写があったのだなあ。

そしてそんな妻の秘密に気づく夫のシーンも印象的で、砂浜に残る2人の足跡を追いながら、2人の逢い引きの画面を追体験している夫がかわいそう過ぎる😭

街の人は独立運動の革命家を応援していて、嵐で海に流された兵器を、暴風雨の中で集めるシーンもすごい迫力。
CGもない時代に本当に荒れた海に入って、役者さんたち大丈夫だったのかしら?!つか、監督鬼?

メタファーを感じたのはまず聖書の話を意識していること。
革命家達がやってくる前、空にはキリストが降臨するような雲。そして12人の男たちと1人の裏切り。不倫がバレてリンチにあうローズもどこかイエスの贖罪のよう。

もう1つ感じたのは、国。
アイルランド人がイギリス人を憎むあまり、当時イギリスと戦っていたドイツに憧れたように、ローズは昔習った先生に憧れる。先生の家にはベートーヴェンの像。
無敵のように見えて弱っていくイギリスを象徴するかのような、足が不自由でPTSDの将校。肝心な時に手が震えて撃てない。死に方も寂しい。

全編を通じて現れる狂言回し的な町の道化と牧師以外みな過ちを犯していて、たまに観ているのが辛くなりましたが、とても見応えがある作品でした。
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