Fitzcarraldo

多羅尾伴内のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

多羅尾伴内(1978年製作の映画)
4.4
"下品こそ この世の花"を矜持に三流娯楽映画の巨匠であるコーブンこと鈴木則文監督作。

二本立て上映の元祖として【比佐天皇】と呼ばれ、時代劇のチャンバラを拳銃による銃撃戦に置き換えた多羅尾伴内の生みの親である比佐芳武から、「こいつは当分ダメだが20年後に大物になる」と言われた愛弟子の高田宏治による脚本。

大滝詠一が変名として多羅尾伴内を使用しているし、小林旭にも曲を提供してプロデュースもしているので、てっきりと小林旭版が好きなのかと思っていたが、オリジナルの片岡千恵蔵版だった…

「それとかね、ハウンド・ドッグ作ったリーバー&ストーラーっていう名のプロデューサーがいるんだけど、彼らはふたりでひとつの別名を作ってるの、エルモ・グリックっていう。で"スタンド・バイ・ミー"なんかはグリックになってるのね。藤子不二雄みたいなもんだね。それを真似して、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーとキース・リチャーズがナンカー・フェルジーっていうのをやってるの。
とにかく、そういう人はみんな別名を持っている。で、ぼくが持つなら多羅尾伴内以外ないと。『7つの顔の男』好きだったから。片岡千恵蔵の大ファンだった。作ったのは"はっぴいえんど"のころだけどね」

ー大瀧詠一"Writing & Talking"

そんな前からだったんだ…世代からしたらそうなるのか…これで千恵蔵版も見なくては…


タイトルバックに『劇画 小池一夫 石森章太郎』とあるが、少年マガジンで連載していた漫画版の設定は使わず、筋書きは東映版『多羅尾伴内シリーズ 隼の魔王』(1955) を再構成して脚色したものだとか…。


オープニング。
○トンネル
トンネルの向こうから歩いてくる小林旭演じる多羅尾伴内。
トンネルの壁に多羅尾伴内の影が映る。その影が二丁拳銃でブッ放す!
すると…その影が横並びに五つになり、その影に重なるように赤文字でドンッと『多羅尾伴内』と出る!ふ〜っ!007の雰囲気があってカッチョイイ!

そしてすぐに…新宿の夜の街をバックにマイトガイの歌声が始まる。よっ待ってましたー!と言わずにはいられない小林旭の主題歌『霧の都会』が堪らない!背景の夜景はB班なのか微妙にブルブル上下に揺れてたり…"HERMES"を大写ししたりと…センスがない。いるそれ?歌がいいだけに勿体ない。


○後楽園球場
ナイターで満席の今はなき後楽園球場。小さい時に一度だけ行ったことあると記憶してるが…こんなに大きかったっけ?

3階席?あんな上の方まで客席あったの?なんかメジャーリーグみたいな雰囲気あるけど…これを壊してしまったのか…勿体ないなぁ…


多羅尾伴内のこの旭…ぽっちゃり?!ゆったりとした話し方も、黒縁丸メガネに口髭も最高!新しい小林旭像で物凄い新鮮!

秘書の新村真砂子役を演じた夏樹陽子も凄まじく綺麗でビックリした。今の女優さんも綺麗だけど、この雰囲気出せないよなぁ……今の女優さんたちは2Dとして綺麗に収まっているんだけど、のぺっとしていてそこに立体感がないといえばいいのか…夏樹陽子は3Dの要素というか…立体感があるというか…いや言い過ぎか…

そして『愛の條件』をクラブで熱唱しただけの八代亜紀が、タイトルバックで夏樹陽子よりも前に名前がきてる!誰に気を遣っているのか…本人も歌っただけなんだから、クレジットなんて後ろの方でいいですよ!って遠慮しなさいよ!なんで夏樹陽子の前に出てきちゃうの?!

『甘い予感』アン・ルイス
『導火線』キャッツ・アイ
『夕日に浜名湖』三原圭子

さらに本人役で歌ってます。映画見ながら急に昔の歌謡曲番組見てる気分がしてくる。一度で二度美味しいオトクな感じがある。もちろん旭の歌もあります!


三崎奈美が演じたアイドルの穂高ルミの舞台上で真っ二つになる衝撃の殺人シーンは…タカラジェンヌの香月弘美の身に実際に起きた事故をヒントにしているとか…1958年4月の花組公演『春のおどり、花の中の子供たち』の第12場で早変わりの移動の際にドレスの裾が巻き込まれて…真っ二つに切断され即死。

この映画の流れがあるから、人形が真っ二つになって落ちていくのを、さすがに荒唐無稽だと笑ってしまったのだが…実際に起きた事故だと想像すると笑えない。なんだよ!そんなのヒントにしてるのちょっと怖いよ!


コロナ禍によって人との交流が断たれ、人恋しくて寂しくて…鬱屈した暗い時間を多くの人々が過ごしている時に、我々観客は映画に対して小難しくて説教じみて理屈っぽい作品よりも、荒唐無稽な描写や破綻した設定をも吹飛ばすほどの笑いに満ちた作品を求めている…それが本作である。おもいっきり楽しませてもらった。

『遠山の金さん』の如く次々と変装をするかと思えば、一段高い所から悪人どもの罪を裁き桜吹雪の刺青を露わにするが如く多羅尾伴内は変装をかなぐり捨て正体を現わす…。

そんな時代劇の王道パターンを楽しめるということは、時代劇がしっかり血となり骨となって染みついているようだ…

『忠臣蔵外伝 四谷怪談』は無理だったけど…
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