NONAME

ベルフラワーのNONAMEのレビュー・感想・評価

ベルフラワー(2011年製作の映画)
4.0
今のこの瞬間は 二度と戻らない。そのことに自覚的であるかないかで その人生の大方の価値は決まってしまうだろう。そして このアメリカ ウィスコンシン州出身 本作『ベルフラワー』撮影当時年齢31歳のエバン・グローデルは 今まさに自分達が過ごしている「20代」という場所が 二度と戻らないという残酷な事実にどこまでも自覚的になることで その無邪気で 残酷で 幸福で まばゆい瞬間を1本の映画に閉じ込めることに見事に成功した。それゆえ 彼の長編デビュー作『ベルフラワー』は まさに二度と作ることの出来ない かけがえのない処女作に仕上がった。

DVDを観るべく プレーヤーのスタート・ボタンを押す。冒頭から 「ヒューマンガス様には逆らえない」「偉大なるヒューマンガス」。マックス・ロカタンスキーはあえて無視する。そして 中盤からの主人公ウッドローの回想や妄想がトリップ的にクロス・オーバーされタイトルが現れて物語は始まる。とにかくカメラワークやザラついた画質が素晴らしい。『グラインドハウス』を彷彿させるピントボケなフィルムテイスト。にもかかわらず そこに70年代ニューシネマスタイルの中でインターセプター(メデューサ号)の爆走のリワインド・シーンが加わるだけで 最高にクール。ソリッド。もうこれだけで十分だ。これは間違いなく 現在 比類するもののない素晴らしい作品だ。

乱暴に言ってしまえば 『ブルーバレンタイン』などに代表される女子への喪失感映画と『イージー★ライダー』をはじめとする68年以降の友情群像を軸としたニューシネマに『マッドマックス』サーガテイストのバイクや中古車を使用した ある意味 世界中のどこにでもありそうなインディペンデント映画。しかも その演出は 思わず笑ってしまうほどに拙い(最初に述べた感想とは多少違うが)。バタバタとしたせわしないリアルタイムでエフェクトされるカメラワークも 心許なげな演技もセリフも 70年代風楽曲も ちょっとした日本の低予算映画の粋を出るものではない。だが それだからこそ ここには熟練やアイデアだけでは決して作ることの出来ないイノセントな輝きがある(低予算でもこれだけカッコイイものが出来上がる)。そして どのシーンも おしなべて20代から30代特有の幸福で 無邪気で フライジャルなヴァイブを見事に捕えていて そこに どこか気怠くて 少しばかり大人びた脇役達が加わることで すべてにビター・スウィートな感触を与えている。それゆえ この『ベルフラワー』という映画は 映画愛に満ちた まばゆい幸福の最中で それがもはや長くは続かないことを知りつつも しっかりと今を抱きしめているような切なさに溢れているのだ。つまり エバン・グローデルは この映画において 自分達の醜い過去と幸福な現在を繋ぎ合わせることで 出来ることなら それが未来にも繋がるようにと 自分達なりの映画の魔法をかけてみせた。

※アメリカ版ポスターのタイトル『BELLFLOWER』の下に表記されている「A LOVE STORY WITH APOCALYPTIC STAKES」も 日本版ソフトのパッケージにも是非入れて欲しかった!






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