NONAME

ハウス・ジャック・ビルトのNONAMEのレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
3.5
「オッ いきなりヘヴィじゃん!」というのが第一印象。「オッ でも こりゃあ 地味なんじゃないのぉ?」というのが その次の感想。最初は ラース・フォン・トリアーの新機軸であるシリアル・キラーが大フューチャーされた女性や子供のキルカウントに気を取られたりもするが 二度 三度観ていくと 目が釘付けになるのは スラッシャー・シーンが無くても(『アメリカン・サイコ』がそうだったように)どこまでも硬質なラース・フォン・トリアー特有のインモラルなトーンである。まぁ 目を塞ぎたくなるようなシーンもあるが 個人的には子供二人の銃殺前の無機質なムードだけでOKだ。とにかくアホっぽさが薄まった。スラッシャー・シーンを見る楽しさよりも エッジの立ったマット・ディロンの演技とセリフが叩き突けられるダイナミズムが心をひきつける。ファンというよりはストレート・エッジ。サイコパスというよりはカーム・マーダー。徹頭徹尾ハードコアな作品である。

この映画を観ていると 前作『ニンフォマニアック』を観たときに 誰もが反応した「ラース・フォン・トリアーのインモラルを背負って立つかに見えたヘビーさ」というものも 実は偶然の産物だったのではないかとさえ思えてくる。なぜなら ここで追求されているのは 殺人映画としての残酷さ/えげつさではなく リアリティだからである。「誠実な不道徳な映画作家 ラース・フォン・トリアー」 。どうにも食い合わせが悪い言葉のようにも思えるが 結局 この 映画から導きだされる答えとは その一語に他ならない。そう このシリアスで ヘヴィなブラックジョーク・ムービーへの帰着は ラース・フォン・トリアーの現在地を見事に描き出している。やはり我々がラース・フォン・トリアーから学ばなければならないのはそんな不道徳映画の闘争の意志である。
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