サマセット7

西部戦線異状なしのサマセット7のレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(1930年製作の映画)
4.0
監督は「犯罪都市」「雨」のルイス・マイルストン。
主演は「オーメン2」「死霊伝説」のリュー・エアーズ。

[あらすじ]
第一次世界大戦(1914〜1918)中のドイツにて。
学校で老教師から、戦争を讃美され、愛国心を煽られた級長ボール(エアーズ)ら学生たちは、熱狂の下に軍に入隊し、フランスとの最前線である西部戦線に動員される。
しかし、彼らが実際に目にした戦場は、飢え、不断の爆音、死、そして戦争の名の下の殺人が日常と化した、地獄そのものであった。
ポールは次々と仲間を失い、心が壊れていく…。

[情報]
1930年公開のアメリカ映画。モノクロ。

トーキー時代最初期の戦争映画として、現在まで語り継がれる名作。
アカデミー作品賞、監督賞受賞。

原作はドイツ人、レマルクによる同名小説。
1928年に新聞の連載小説として掲載された。
内容は、大人たちに賛美されて戦場に送り出された若者たちが、地獄の戦場を目の当たりにする、というもので、反戦がテーマとなっている。

1928年は、第一次世界大戦から第二次世界大戦の間、第一次世界大戦の敗戦国ドイツが連合国から莫大な賠償金を請求され、窮乏していた時期。
その後第二次世界大戦に突き進むドイツにあって、戦争の愚かしさを謳う小説が発行され、海を越えてアメリカで映画化されるに至ったという事実は興味深い。
原作者のレマルクは、ナチス政権下では迫害され国外への亡命を強いられた、という。

今作は1930年の作品とは思えないほどの、リアルな戦場の描写、演者たちの迫真の演技、クリアなテーマ性を有し、現在でも極めて評価が高い。
髪型、服装、武装などをはじめ戦場の描写は、徹底的な考証の下再現されている、とのこと。
他方で、俳優は主にアメリカ人が演じており、ドイツ人の役でも全員が英語を話している。

今作(の原作小説)は、1979年テレビ映画としてCBSによりカラーでリメイクされた。
また、2022年には、NETFLIXにて、ドイツ語でリメイクされており、こちらもアカデミー賞撮影賞など4部門を受賞して、評価が高い。

タイトルは、戦場での個々の兵士の生き死には、大局的には「異常なし」である、という原作ラストの風刺に由来する。

[見どころ]
反戦テーマを明確にする構成の妙!!!
90年以上前の映画とは思えぬ、戦争描写のリアリティ!!!
戦場における日常を活写する、ディテールの積み重ね!!

[感想]
大変良くできた反戦映画。
星の数ほどある映画の中で、100年近く名が残っているのには、理由があるのだ。
136分は正直長いが、同じく第一次世界大戦を描いた「彼らは生きていた」と並んで、戦争の実情を知る資料として、一見の価値は間違いなくある。

今作は、冒頭の熱狂の従軍、大半を占める戦場での日常、終盤の故郷での休暇、の3つのパートに分かれる。
終盤の故郷での描写こそがクライマックスである。
それまでの描写の積み重ねは、クライマックスで感じる理不尽さと虚しさを補強する、という構造になっている。
学生に語りかける教師のアジテーションが、冒頭と終盤で如何に異なる印象を与えるものか!

全体として悲劇的な映画だが、従軍から訓練へと続く最初の30分と、その後もところどころ差し挟まれる日常風景は、コミカルですらある。
人が生きるのは、どこであろうと可笑しさを伴うものなのだ。
この可笑しさの積み重ねがあるからこそ、戦場の人間関係に厚みが加わり、その結果、突然理不尽にも生命が失われる戦場の非情さが際立つのである。

ラストシーンの余韻は、映画史に残るもの。
個人的には、有名な原作ラストのタイトル回収は映画ではやらないの??とも思ったが、映画でやると陳腐になる、という判断か。

[テーマ考]
戦争の理不尽さ、虚しさ、無意味さ、非情さが今作のテーマである。
特に、銃後の観念としての「戦争」と、前線での体験としての「戦争」のどうしようもないギャップこそが、メインテーマと言えそうだ。
今作のあらゆる要素は、このテーマを語るために配置されている。
今作を観た誰もが、終盤の主人公の故郷で、いまだに戦争を賛美している大人たちを見て、こいつら、何も分かってねえ!!と絶望する、という構造になっている。

このようなテーマの作品が、1930年に撮られたのは何故か?
第一次世界大戦以前、戦争は騎兵がメインの、比較的牧歌的なものであった。
まだしも英雄や栄光といった観念が、成り立つ余地があった。

しかし、機関銃、爆弾、航空機、大量輸送手段など、大量の人を動員し、かつ、大量の敵兵を効率よく殺戮できる手段が整った第一次世界大戦では、様相は一変した。
そこでは、人類が体験したこともない、命と銃弾の消耗線が繰り広げられたのである。

政治を預かり、若者を戦地に送り出した老人たちは、文字通り、戦場で実際には何が起こっているのか、知らなかったのだ。
その体験を欠いた政治判断が、第一次世界大戦を、当時史上最大の死者を出す戦争とした。
大戦後のドイツ人ほど、その痛恨を噛み締めた者はいなかったであろう。
今作が戦争を扱った他作と比べて心を打つのは、ドイツ人である原作者の実体験に基づく想いが、物語に表れているからではないか、と思われる。

[まとめ]
最初期のトーキー作品ながら、現在でも輝きを失わない、語り継ぐべき反戦映画の名作。

今作が描いた痛恨にも関わらず、ドイツはナチス主導で第二次世界大戦に突入する。
今作の主演を務めて注目を集めたリュー・エアーズだったが、人道的従軍拒否を表明したところ、アメリカ国民から総スカンにあって、その後俳優として没落。
人間って、何も学ばないのね、っていう話。