けーはち

水戸黄門漫遊記 鳴門の妖鬼のけーはちのレビュー・感想・評価

3.7
副題“鳴門の妖鬼”だし例のごとくB級伝奇ホラーかと思いきや本作はシリアスなサスペンスドラマ。人形浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」のキャラクターを引用し、武家の妻お弓と、娘の巡礼お鶴が主人公。お弓の夫は計略で殺され、幼子のお鶴も鳴門の渦に小舟で呑まれ行方不明に。お弓は商人の妻に身をやつすことに──数年後、阿波の家老と結託し暴利を貪るその商人に迫る水戸の御老公だが、ひょんなことから親なし子、巡礼お鶴の親探しを手伝うことに。

母子別離/再会の人情ドラマに水戸黄門御一行の世直しが「ついで」な構成だが、ベースになった浄瑠璃(やその元になる史実)も相当悲劇であるから、本作も後年の水戸黄門のイメージからすると、或いは現代人の人権感覚からすると、シビアすぎる悲劇が待ち受けている。諸所で延々と打ち鳴らされる阿波踊りのリズムが、集団の狂騒の中にあらゆる個人の人生の悲喜劇が埋没するような感覚を醸していて、ハードボイルドなのだ。