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ベント/堕ちた饗宴のmitakosamaのレビュー・感想・評価

ベント/堕ちた饗宴(1997年製作の映画)
3.2
もう20年前の映画だということに驚く。
ナチスによる同性愛者の収容所送りの映画。
元々は舞台で、日本版は04年・椎名桔平×遠藤憲一版、16年佐々木蔵之介×北村有起哉版も観劇してる。

舞台と比較して見ると、男臭さとか性の臭いは舞台の方がかなりある。映画版はそこではどうしても弱いかな。
ただ、当然の様に映画はちゃんと背景があるんだよね。凍える様な冬の寒さや茹だる様な夏の暑さ等の四季の描写などは、当然映画の方に利がある。
精神的な苦痛は舞台の方が生々しく感じるが、映画の方が肉体的痛みを感じるかしら。

映画・舞台とも、冒頭で「エルンスト・レームが粛正された。俺たちも危ないぞ」というセリフがある。
これは簡単なセリフのみでサラッと流れるのだが、実はこの話を語る上でとても重要な歴史的事件だということを知ってほしい。

エルンスト・レームとはナチで突撃隊の幕僚長だった男。
突撃隊と親衛隊との政治争いで、レームを失脚させる大義名分が必要になる。その際に同性愛者であるレームに対して“刑法175条”同性愛禁止法が適用される。
突撃隊幹部は親衛隊に大量粛正、これが“長いナイフの夜事件”。

この“レーム粛正”事件をキッカケにナチスは同性愛者を大量に収容所送りにする。これがこの物語の舞台背景。

収容所送りにされた同性愛者の仕事として、岩の山を右から左に移動させ、終わると左から右に移動させる、このなんの意味も無いことを毎日毎日続けさせられる。それこそ季節を何巡もするほど。
気が狂いそうになるのを、殺されない為にひたすら単純労働に堪える。

実際はピンクトライアングルはもっと理不尽に大量に殺されたとも言われているので、この映画では殺されないだけマシという気にもなってくるが、これは舞台も是非見て欲しいなぁ。生殺しの状態が如何に辛いかは舞台の方が伝わると思う。

長いナイフの夜に関してはヴィスコンティの地獄に堕ちた勇者どもでも取り扱われている。だいぶデフォルメされているが併せて観て欲しい。
また、書籍では「ピンク・トライアングルの男たち」がオススメ。是非こちらも併読してもらいたい。
また、刑法175条は1994年までドイツで施行されていて、永らく同性愛が犯罪として扱われていたことも知っておいて欲しい。
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