Otun

秋刀魚の味のOtunのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.7
小津安二郎、遺作『秋刀魚の味』。再見。

大体が、ウディアレン作品と小津安二郎作品はどの作品がどれかが分からなくなる。
『あ。もしかしたら、これまだ観てないかも』と、ときめいて再生すると『なんや観たことあるわーい!』と画面に突っ込む事がままある(『僕のニューヨークライフ』レビュー参照)。
恐らくそれは、毎作品設定や登場人物の配置があまり変わらず、ともすると物語すらもかぶっていたりするからだと思う。
じゃあ、嫌いか?スピルバーグやスコセッシみたいに様々な作風の映画を撮れる監督が好きか?否。私は、どちらかと言うと前者の監督達の方が好きです。

さて、物語。前述しましたが、『晩春』などに代表される、小津節とも言うべきお約束。
"嫁に行きたがらない娘と、嫁に出そうとする父親"がベース。

そして、今作当時の戦後の庶民の日々の生活がびっしり詰まっている。
父(笠智衆)の娘(岩下志麻)への複雑な思い。
いい歳した同級生同士(中村伸郎、北竜二)の行きすぎた冗談だったり。
残された父を心配する娘(岩下志麻)の台詞『私、お嫁に行けなくてもいいんですの』(絶対晩春とかでも言ってたよなこの台詞原節子さん)。
かつての恩師ひょうたん(東野英治郎)の酔いどれ具合と行き遅れた娘(杉村春子)の涙、ゴルフクラブを欲しがる亭主(佐田啓二)と買わせようとしない嫁(岡田茉莉子)。
海兵隊の部下(加藤大介)の軽口と、軍艦マーチの敬礼。生前の妻を見るトリスバーのマダム(岸田今日子)。

列挙してしまいましたが、本当にどれもこれもが愛らしく、可愛らしくて、おかしい。
それでいて、日本人の慎ましさや我慢強さなんかが、また明るく振る舞う中でこぼれ出てきちゃうから胸にくる。いとおしい。

こうゆう映画を観ると、日本に生まれ、日本人で良かったなと、私は心から思うのです。
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