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ハイランダー/悪魔の戦士のninjiroのレビュー・感想・評価

ハイランダー/悪魔の戦士(1986年製作の映画)
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最後に残るのは、ただ1人!

ハイランダーとはスコットランドの高原の一族。時は16世紀、そこに産まれた主人公コナーは、別の勢力との戦の際に不死の身体を手に入れ、伝承により同じく不死の身体を持つ者たちと世紀を超えて剣一本で命を懸けて闘うことを宿命づけられる。そして勝ち残り、最後の1人となった者には、大いなる報いがあるという…。

30年前の映画である。
初見は日曜洋画劇場で、それが何年前だったか、私も小学生だったか中学生だったか…数字・計算に弱い上にボンヤリした子供時代を過ごしていた為にその辺がかなり曖昧だが、まあいいか。

とにかく当時、やたらと剣と魔法の紡ぐファンタジー系の映画は多く、私自身もたまたま吉川英治の「宮本武蔵」やなんかにハマっていたこともあって、学校からの帰り道などの無為な時間、道端に棒切れが一本無造作に転がっていようものならそれを手に取る欲求を抑えるのはそれはそれは大変なものだった。
それを伝説の剣に見立てて一旦手に取ったとして、そこから始まる異世界・異時代への冒険に心が飛んで帰らず、延々とブンブンと振り回し、友達と一緒の時には決闘タイム、独りの時には止む無く修行タイムとまぁ忙しかった。

そんなよくいる阿呆の元に叩きつけられたのがこの作品、テレビで流される次週予告を見た時点で心が躍った。
これは「私の映画」だと…。

何年振りになるだろうか。
もはや如何なる棒切れにもさほどの欲求を感じなくなって長いが、悪戯に何となくまた観たくなったので止せばいいのに再見。
結果、三つ子の魂百まで、を証明するところまではいかなかった。
それは何故か。
一つには率直に言って映像として、アクション演出としてどうしようもない点。
あれ程に心躍ったチャンバラが、今観るとどのシーンもゆったりとして、なんと惨めに見えることか。致命的なのは主人公、暴君にして最強の敵を迎え撃つ正義の戦士、クリストファー・ランバートの終始腰の引けた殺陣はみっともないったらありゃしない。
千葉真一に稽古つけてもらって出直せ!
「SFソードキル」で藤岡弘の身のこなしを観て勉強してこい!
とにかくただ剣に振り回されているという印象で、折角きった見得も悉くスベりまくっている。
そしてそれをありのまま引きで全身を愚直に撮るカメラ。
この非情振りにはこちらとしてもランバートに同情してしまうレベルである。

そして作中、ツッコミどころが豊富過ぎてどうにも気が散って仕方ない。
この時代の作品には付き物だが、それだけいい加減な、よく言えば大らかな時代だったのだろう。
一個一個付き合っていたら果てしない長文になるのでいくつか箇条書きで。
・戦闘中のバック転での移動って…
・組み立て式の剣の強度って…
・紀元前593年の日本で鍛造されたマサムネって…
※この矛盾点は本編中でも指摘されるが、結局笑って放ったらかしという杜撰さ。
・ショーン・コネリーの生い立ちの設定の雑さって…
※最初に西暦が出てくるシーン、1536年から5年が経過した時点でコネリーが言う2437年前産まれということは、生年は紀元前896年、よくわかんないけどザックリとエジプトで産まれたってことにしときゃ問題ないでしょ?的ないい加減さ。
・米独立戦争時代のボストンの描写の寒いコントのような仕上がり具合って…
・木箱に密閉したレコーダーの集音能力って…
・NY市警の鑑識が住むマンションのグレードって…
・突如として惹かれあう主人公とヒロイン、そして意外と生々しいラブシーン…
※余りの唐突振りに唖然とします。これを観たキッズ達が、童貞喪失なんてタイミングさえ合えば簡単さ!と明るく勘違いしないか心配(←要らないヤツ)。

そして、かつて初鑑賞の際号泣した本作で私が最も好きだったシーンでも。
主人公の恋人と過ごす幸せな日々の描写中、いつまでも変わらぬ主人公に対し、恋人だけが年老い衰えていってしまう。歳をとれない、死ぬことが出来ない主人公の運命の無情さ、孤独、愛する人との生涯を真の意味で共有できないという哀しみを表し、クイーンの素晴らしい劇伴とも相俟って本作随一の凄くいいシーンの筈なのに、相手役の老けメイクがコント並みに適当過ぎて、観ながら思わず「…台無しだよ…。」と声が漏れてしまった。普通にそのシーンだけお婆ちゃんを別にキャスティングすれば済むはずなのに…。ダブルキャストって概念は無かったの?

その他、物語の根本的な部分、不死に関する問題など、説明しようとする素振りは見せるくせに一切答えを出さない。それどころか「太陽はなぜ昇る?それを不思議に思ったことはあるのか?それと同じだ。」だって!
開き直っちゃった!禅問答で煙に巻いちゃったよ!
実際その不死の問題を含めて、色々と良かれと思って盛り込んだのであろう様々な「おかず」は、清々しい程何の解決も解説も施さないまま放り出されっぱなしだ。
その後、ある程度人気を呼んだ本作の後を追い、2作目、3作目が製作されたと聞く。
その続編の中で、もしかしてそれらの謎についても合理的な説明が為されたのかも知れないが、最早はっきり言ってどうでもいい。

オススメ?
する訳ないでしょ。
でも好きだよ。いろんな意味で。
ninjiro

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