emily

不完全なふたりのemilyのレビュー・感想・評価

不完全なふたり(2005年製作の映画)
4.0
結婚して15周年を迎えるニコラとマリー。周りからは理想のカップルと言われているが、このたび離婚することが決まっている。友人の結婚式に参加するため、リスボンからパリにやってきた二人は、些細な事で口論となり、マリーはロダン美術館で、男女の彫像に魅せられ涙していた。

冒頭から車のガラス越しに見る風景や、雲の美しさ、ガラスに反射する奇跡のような光の煌びやかさに、二人の未来への希望を予感させる。二人の間に流れる微妙な空気感を閉鎖的な画面で見せ、暗転に使われる赤、トイレの壁の赤、コートやワンピースの赤など赤色を効果的に取り入れ、不穏感の中に心の動きや、奥底にある愛を見る。鏡を使って人物の構造をより立体的にみせ、うちに秘める心情を、見知らぬ人との語りによりあぶりだす。

固定カメラと手持ちカメラを多用し、フィックスにおいては役者がカメラの外に配置され、声だけが聞こえ、その表情を見せない。遠くから人物をとらえ、カメラの少し手前で左に曲がり画面から消えるが、そのままカメラは無を捉える。しかしそれもまた不穏な空気を効果的に表現し、特にマリーとニコラの間の扉を長時間映し、ただマリーの言葉だけが無常に響くシーンには、二人の温度差を十分に感じられる。女は男を攻め、男はただそこから逃げようとする。そこにはマリーのどうしようもない歯がゆさがしっかり描写されており、そのイライラ感の空気に共感を覚える。手持ちカメラではどアップで人物の顔を映し、これでもかと表情に、皺の一つ一つを映すように、目の奥に映る薄い涙の膜まで捉える。極端なまでのカメラワークが絶妙な二人の心情をしっかり捉え、微妙なズレがヒリヒリとした痛みを伝える。

別れることを決めた二人であるが、そこには確実に未練が流れ、結婚指輪もしっかり輝いている。言葉の節々であったり、そのあからさまな態度と、嫌いという言葉に、裏腹な気持ちを感じずにはいられない。二人はまだ未来を明るく捉えていないし、まだ葛藤の真っただ中にいる。完全なふたりなんて存在しない。不完全であるからこそ、お互いを知り、お互いのダメなところを認め合い、そこを補っていけるのだ。15年寄り添っても、まだまだ知らないところはある。人は日々変わり成長していくのだから、日々新しい発見を見つけられるはずだ。二人は一人になれない。いやなる必要はない。生まれた環境も育った環境も違う二人が、分かり合えること自体不可能なのだ。大事なのは分かり合おうと努力することだ。そこに愛が生まれ、未来が生まれる。
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