ワンコ

ハロウィンのワンコのレビュー・感想・評価

ハロウィン(1978年製作の映画)
4.2
【楽観的だったアメリカへ】

この作品が制作された1970年代、アメリカ社会にはそれまで経験したことのない得体の知れない不安が蔓延していた。

1950年代に始まった公民権運動が1960年代に実を結びそうになり、女性解放運動にも繋がった。
ただ、この時代、ケネディが狙撃され命を落とし、ベトナム戦争も泥沼化が懸念されて不穏な空気も漂っていた。

これに続く1970年代は、ウォーターゲート事件、資源ナショナリズムを背景にした2つの石油ショック、ベトナム敗戦、日本やドイツの台頭によるアメリカ製造業競争力の相対的地位低下、慢性的なインフレは今にも通じるが、暗く、そして、アメリカ社会の国際的な威信が建国以来初めて低下した時代でもある。

さらに、テッド・バンディも70年代を象徴するシリアルキラーだ。

アメリカが内向きになると同時に、実はアメリカの内側にも得体の知れない問題を抱えていることが明らかになったのだ。

こうした不安の原因は一体何なのか。

ハロウィンはアメリカがメインのお祭りだが、もともとはアイルランド移民が持ち込んだ古代ケルトの民族文化で、ブギーマンもスコットランド生まれだが、アイルランドで密かに語り継がれた、子供を短い間連れ去って遊ぼうとする妖精が起源だとされる。

アメリカは先住民を駆逐して建国された国だ。
それは多くのアメリカ人の認識するところであり、自慢できるようなものではない。

そして、敗戦や石油ショック、新たな経済新興国の台頭という外部からのファクターだけではなく、人々を戦争のリスクに晒し、自らも腐敗する政治や、異常者を育むという内側のネガティブなファクターを孕んでいたのだ。

アメリカの文化として定着していたハロウィン。先住民文化とも通じるアニミズム信仰だ。
しかし、伝統的な福音派などカトリック信仰は、これを”異端”の文化として認めず、民主主義は人種や性別を超えて拡大し、多様化するカルチャーは伝統的な既存文化と軋轢を抱え、ベトナム帰還兵のPTSD、更に、閉塞的な時代を背景にした精神的苦痛に病む人々の増加。

これはモグラ叩きのように個別に一つずつ対応しただけでは到底解決出来ない問題なのだ。

複雑化する問題は二項対立で理解することは出来っこない。
僕たちの生きる現代社会の病理とも通じる。

ハロウィンにやってくるブギーマンは、楽観主義が当たり前だったアメリカ文化に、もう少し考えるように促していたのではないのか。

だから、また、やって来ることを示唆するようなエンディングだったのではないのか。
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