青山祐介

神々と男たちの青山祐介のレビュー・感想・評価

神々と男たち(2010年製作の映画)
4.5
『わたしは言いました「あなたがたは神々だ。そして皆、いと高き者の子である。しかし、あなたがたは人間のように死ぬであろう。また、あなたがた君侯は、万人のように倒れるであろう」と』詩篇第82篇
 物語は詩篇アサフ(先見者)の讃美から始まります。神々とは、キリストの<神のことばが託されている者は神々である(ヨハネ10:34.35)>からきています。すなわち神々とは修道士たちのことであり、また男たちとは、裁きをうける弱き人間たち、すなわちこれもまた修道士たちのことを意味するのではないかと思われます。
 ボーヴォワ監督は、1996年アルジェリアでおきたイスラム原理主義者(武装イスラム集団)によるシトー会修道士の誘拐と殺害事件を題材とした物語を、美しくも厳しく、哀切に淡々と描いてゆきます。8名の修道士たちの心は、保護か、避難か、残留か、瞑想と祈りか、という極限の状態におかれ、キリスト者の使命と暴力的な死の狭間で、揺れ動きます。
 最後の晩餐のシーン(このような美しい場面をいままで観たことがありません)、修道士たちは合議により残留=殉教を決意いたします。そのとき流されるチャイコフスキーの「白鳥の湖」がわたしたちのこころを高めます。この楽曲の選択を陳腐であるという人がいますが、白鳥と黒鳥の内容といい、旋律といい、この舞台にふさわしいものであるといえましょう。そしてユニゾンの簡単な旋律から、徐々に難度があがる修道士たちの聖歌斉唱が、神への祈りの深さを語ります。「主はわたしたちをどこに導くのか ― それは生まれること、生まれ、生まれて、ついには私たちがこの世に神の御子をお迎えする(=再臨)ために。このようにわたしたちが今生きていることは、この先も生き続けるということだ」
 修道院長クリスチアンは暴力的なテロに斃れます。「すべての命の師キリストもこの残酷な死を体験された。そしてその死は無関心のまま忘れられた。多くの暴力的な死と同じだ。
私は全ての生に対し“ありがとう”と言おう。そして“さようなら”と」
青山祐介

青山祐介