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さらば、わが愛 覇王別姫のAyaxのレビュー・感想・評価

さらば、わが愛 覇王別姫(1993年製作の映画)
4.1
実は観たことがなかった作品(そういうのとても多い)。上司の激推し&映画館で4K上映しているというのを知って観に行った。
歴史とかあまり興味がない方なので、寝ちゃうんじゃないかと心配だったけど、全く眠くならない。話の展開が結構早いというか、中国の歴史を知ってる前提のちょっと端折り気味なところがあるなと感じつつ、怒涛の172分。
社会の変化に翻弄された人々のとんでもなく美しく、そしてとてつもなく悲しいお話。芸術点めちゃくちゃ高い。
ポスタービジュアルなどから思いっきりそうだけど、メインのカラーは赤。とにかく赤い。赤推し。序盤のモノクロのシーンで赤い部分だけ色が付いてる見せ方がおしゃれ。赤色が使われていないシーンでも基本暖色のトーン(ただし、冒頭とラストを除く)。赤はもともと中華圏の特別な色(好む色とも言われている)なので、衣装や内装、京劇のメイクなどに多用されているし、血や火も劇中でよく出てくる。さんざしの飴も。赤色は情熱や激動≒生の象徴。逆に冒頭とラストは青みがかった照明で死を表していると思う。好きか嫌いかは一旦置いておいて、色味でそのような対比を表現しているというだけで、映画全体の格がぐっと上がるというもの。
それだけでなく、シーンだったり台詞だったり関係性だったりを物語の前後で呼応させているような表現も素晴らしいと思った。特にすごいなと思ったのは、蝶衣と菊仙の関係性。蝶衣は遊女の母親に捨てられたこともあり、小楼の妻の菊仙(元遊女)が許せなくて、菊仙も蝶衣のことをあまりよく思っていないのだけど、蝶衣がアヘン中毒になったときにお互いの傷を埋め合う。その時だけは、蝶衣にとって菊仙は母親の代わりで、菊仙にとっては蝶衣が流産で失った子供の代わり、という!!決して仲良しクラブにはならないが、蝶衣と菊仙の同じ男を愛してる同志のような目に見えない絆があったように思う。こんな話よく書けるなあと脱帽。視覚的な芸術性が高いだけでなく、ストーリーにもちゃんと引き込まれる。
そして、観たら誰しもが思う月並みな感想になってしまうけど、レスリー・チャン(蝶衣)がこの世のものとは思えないほど美しい(蝶衣は男性で京劇の女形という役)。劇中の台詞で「一度ほほえめば永遠の春が訪れ、一度涙すれば永遠の悲しみが襲う」というところがあって、この蝶衣という美しい人を表すのにこれ以上の表現ってある???と思った。
蝶衣の少年期を演じている子も、ものすごく存在感があって、表情が印象的で素晴らしかった。
衣装や美術も大変細かく、美しく、手が込んでいて超絶美麗。
もう1回ちゃんと観て、歴史の勉強もちゃんとしないとわかりきらない部分があるとは思うのだけど、ラストに関しては、役と自分の人生をオーバーラップさせている蝶衣が、舞台で生きられないならば生きる意味などないという感情から「覇王別姫」のラストと自分を重ねて……というところかな。
とにかく本当に美しいので、ファッションやメイクなど美しい物が好きな人は観て損はないのではないかな。映画としても、誰が観ても「これは後世に語り継がれるわあ」と思える傑作なので、みんなできるだけ観た方が良い。あらすじとか予告とか見て、何か古臭い時代劇みたいだからパスと思う人が多いと思う。私もそうだった。それで観ないのはもったいない。観たら全然その古さとか気にならないから!4K上映というせっかくの機会なのでぜひ映画館で!!
私が好きなジャッキー・チェンとその周辺の俳優たちも京劇学校出身者が多く、彼らのアクションが少しダンスっぽい理由がよくわかる。なので、ジャッキー好きにもおすすめ。
字幕が戸田奈津子ってどういうことだろう?もともとの字幕を直したとかそういうことなのか?
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