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さらば、わが愛 覇王別姫のGanのレビュー・感想・評価

さらば、わが愛 覇王別姫(1993年製作の映画)
4.5
ただ瞠目し、素直に「観てよかった」と言える。

鑑賞中は力が入るも、観終われば途方もない脱力感に襲われる。これが心地良い。
本当にいい映画というものには、視聴者の姿勢を正し、時間を忘れさせ、雑念を全て奪い取る力がある。さらには、個人の思想やバックグラウンド等、パーソナルな部分へ根差し、鋭角に切り込みさえする。
この引力に出会うために、そう短くもない映画を何本も見続けているのである。

嫌味ったらしくない物語的な伏線と、助平心のない小道具の伏線。刃研ぎの声と、砂糖漬けサンザシの売り子の声。
母の面影がちらつくも、石頭の嫁でもある菊仙。彼女に対する小豆の態度には、純文学的なノリさえ感じる。
語る切り口は尽きない。某評価でも見たが、まさしく「思い返す度にウェルメイドになっていく映画」。

個人的には、中国近代史において、文革やそれに伴う紅衛兵のくだりはとりわけ興味深く、そこが生々しく描写されている点は嬉しくてたまらなかった。
歴史と深くリンクしながらも、所謂大河ドラマのような重々しさ、叙事詩的な側面を前面に出さないのが素晴らしい。あくまでも、骨太の抒情詩に徹している。
映像美、音楽、演出は言わずもがな。
4Kリマスター版を見に行けなかったのが惜しい。
蛇行する河川も、やがて海に注ぐ。
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