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誘惑のikumuraのレビュー・感想・評価

誘惑(1948年製作の映画)
3.2
【小悪魔原節子】
「晩春」前年の映画だそうで。

戦中不遇だった父を亡くした医学生の原節子、
その墓前に現れた父の元教え子で理想に燃える青年代議士の佐分利信。
身寄りのなくなった彼女は佐分利信の家に家庭教師として身を寄せる。
彼には肺病やみの妻、杉村春子がいて、
子供たちは早くも原節子に懐く・・・
小津キャストが他の監督の下でメロドラマしてる感じ。

不倫こそ純愛、という人がいるけど、
純愛=鈍感さとして見ると、純愛なのかも。
序盤、東京に帰る電車がなくて途中駅で旅館に泊まったら一室しかなく同衾せざるを得ないの、
あそこで何も起こらないし(笑)
佐分利信は紳士然としていて(これめっちゃ似合ってる)、
原節子にはちょっといい感じの学生友達がいて、人のものを取る気なんかなく、
でも惹かれあっちゃう、仕方ないのよ・・・
という話として、戦争直後の観客たちはものすごい興奮したんだろうか。
なんせ原節子は小悪魔だし。

杉村春子の面会日に原節子もついて行って、子供に懐かれてるところを見せつけてしまい、
あろうことか砂浜で縄跳びに興じる・・・
「私たち、夫婦の生活に戻れるかしら」
とこぼす妻に、
「それは病状によるさ」と困ったように返す夫。
そろいもそろって鈍感!!(笑)

しかしその砂浜でめり込む原節子の足、
ダンスホールのおぼつかない原節子の足、
抱き上げられる時の、むしろ処刑台にいるような原節子の足。
独特な映像と音楽が映画中不吉な空気を漂わせているところが、
ただのメロドラマとはひと味違った。
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