ikumura

生きる LIVINGのikumuraのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
3.5
観終わって映画館の外の景色は雨、
それがそのまま50年代のロンドンに思えてしまうような、
そういう鑑賞体験は久々。

黒澤の原作をリスペクトしつつ新しいものにしていて、
単体の映画としても素晴らしいものだと思う。
ただ、すっきり、いい話になりすぎてるかな、と思わないでもない。
オリジナルにあった、後日譚のさらなるエピローグの皮肉と諧謔、
踏襲されてはいるんだけど、それでも「志は密かに受け継がれる」という、
ある意味もっと日本のドラマ的な展開。

あとやはりビルナイが高齢で紳士的すぎて(イギリスの公務員って定年ないんだろうか笑)、
「死を前にして善きことをなす」行動に違和感があまりない。
まだ一見普通のオジサン寄りの初老の志村喬の場合、
しょーもない日常から急に死期を知って右往左往する過程が陰影を深めている気がする。
イギリス版はジェントルマンであるところに意味があるとはいえ、
個人的にはビルナイがカッコ良すぎた。

とはいえ、冒頭の画質の悪いフィルムからなんだかテンション上がり、
脚本のカズオイシグロワールドだわ、という感じの、
硬直した組織への違和感と、
それでもその場所や人に愛着を覚えてしまうアンビバレントさ、
(その点で最高傑作はやはり「日の名残り」だと思う)
それはやはり日本にルーツを持ちながらイギリスで育ったイシグロならではのしてんなんだろうし、
彼だからこそこの脚本に携われたんだな、と思う。
ikumura

ikumura