唯

つばさの唯のレビュー・感想・評価

つばさ(1927年製作の映画)
3.9
途切れずに続く音楽は非常に単調。
変調を加えながらも基本は同じメロディーと拍子が続くので、戦争という暗い題材を扱いながらもどこか前向きさがある。
ゲーム音楽の様な雰囲気さえするので、戦争に送り込まれた若者一人一人の生命を軽視していた時代観(それに対する反発)を感じる。

サイレントだからこその俳優の情感たっぷりの演技が人間という存在の豊かさを感じさせる。
女性達の健気で気丈な振る舞いがまた良いね。
台詞がないからこそ、こちらの想像力を自由に膨らますことが出来るし、演者に答えを提示されることなく観客が感情を吐露できる。

若者にとっては戦争の前に恋愛や友情や遊びがある。
誰かと繋がりたいと願う気持ちはいつの世も変わらない。
それなのに、若い時代を奪われるということは本当に悲しい。
故郷ではあんなに自由に溌剌と若者らしかったのに、戦地に赴けば死を覚悟した顔になってしまう。

未来ある若者がちゃちい戦闘機に乗らされ生身で塹壕に送り込まれる悲劇。
もはや死にに行っている様なものである。
仕方なかったとはいえ、罪悪感を背負ったジャックのこれからの人生を思うと居た堪れない。

生死が懸かった状況でも女のことで精神を左右されて仲違いする。
それほど恋とは人間の心の大部分を占める。
近くにいて当たり前の存在は軽んじられがちだが、メリーの存在の尊さに気付いてくれて安堵。

出て来るメンズが皆美男子。
イケメン扱いされないイケメンタイプのジャックが好き。

ストーリーがよく出来過ぎていると思う程のクオリティ。
今となっては定番とも言えるが、それが1920年代に完成されていたとは。
唯