ブタ野郎

故郷のブタ野郎のレビュー・感想・評価

故郷(1972年製作の映画)
3.5
とにかくカメラワークが最高過ぎる。
人情やドラマももちろん良かったのだけれども、過去にあった哀愁の一つでしかない印象。
船長から労働者になるという、故郷を離れなければならないという悲壮。今に生きている身からすると交通の便も多様化しているしSNSで連絡はすぐに取り合えるし、寄り添える部分もあるのだけれども、心の底から登場人物たちの様には感じられない。
感覚でそうなだけなのであって理解はできると思うけどね。

ひとつひとつの演技や倍賞千恵子の素敵なオーラがムンムンで郷愁感が半端ない映画。
工場見学の後に二人でご飯食べている時に半分食べなと言って自分のおかずを夫に分けてそれを笑顔で覗き見ている奥さんのシーンが印象に残った。

物語内の会話や雰囲気が凄まじくて、その頃を体験していなくても感じられる焦燥感や安心感があるのは本当不思議。なぜ見た事もない昔の画面でここまで懐かしく恋しくなるのか。どこかに憧れがあるのかもしれない。

とにもかくにもカメラワークの凄さ。セリフはなく島の要所要所を様々なアングルで映したり、ただ働くシーンが続いたりするのが多くて、見ていて気持ちいい構図ばかり。
渥美清と喋っている時のローアングルと抜けた空が本当にクール。
ただただ画面が楽しい!というカットが多くて、個人的に大満足。
そのフィルムを伸ばして壁に飾りたい。

船のシーンもかなり多くて、生っぽさが頭に残る。
カットとカットの間が静かで心情を映している感覚。そしてそのカットがまた情緒的でじんわりと心に染み込んでくる様。

そこまで多く昔の邦画を見ている訳ではないけど、その頃の邦画はカメラアングルや構図やデザイン部分が達者だと感じる。今の邦画もそういうのはあるのかもしれないが、あまり感じられない。

めちゃくちゃ良かった!
ブタ野郎

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