shibamike

緋色の街/スカーレット・ストリートのshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

フリッツ・ラングの得意技詰め合わせセット。
冴えないおっさん、美女、不倫、復讐、裁判での大衆の証言、死刑、冤罪、などなど。
詰め合わせの感を自分は勝手に感じたので、少しとっ散らかった印象も受けたけれんども、名作。

全体的には「飾窓の女」系の話。
出演者の面子も大体似てる。
25年間、真面目一筋で会社勤め(出納係)してきたおっさん(クリス)は、会社社長が若い愛人と逢い引きしているのを見て、同僚にポツリと漏らす。「なぁ、若い女性から愛されるって、どんな気持ちだろう?」クリスのこの言葉には羨望の念が露骨に滲んでいる。
そんな折に、ふとしたきっかけで絶世の美女(キティ)とお近づきになるクリス…。

やっぱりジョンベネ様、麗しいわ。
外見の美しさだけでなく、お行儀の悪い仕草も様になっており(あごをカコカコ左右にずらしたり、くわえタバコで机のロウソクから火をつけたり!もうヤダ!)、男性陣骨抜きでしょう。自分の心は映画館に置いて来ました。え?いらない?持って帰ることになりました。

ルックス・振る舞いすべてパーフェクトに見えるキティであるが、唯一にして最大最悪の欠点がある。まさかの「ダメンズ好き」。ジョニーという、女を殴る、金は奪う、という荒くれ者を愛しており、キティはジョニーにそそのかされて、クリスから金をせしめることに。大金は持っていないが、キティを失いたくないクリスは会社の金に手をつける…。

冴えない男が会社の金に手をつけて美女に貢ぐ。最近だと、会社の金を横領して、亀有のキャバクラ嬢に5億円貢いだ平凡な会社員が2010年頃に逮捕された事件がある(平凡じゃねえか…)。自分はこの事件が大好きであるが、こういった事件すら先取りするラングしゃん、ごいすー。「キャバ嬢に貢いだ平凡な会社員もこの映画を見ていれば…」と自分は鑑賞中ちょっと思った。自分はあの会社員のことを他人のように思えないし、同様に本作のクリスもとても他人とは思えなかった。冴えない男、世知辛れぇー。

悪漢ジョニーと悪女キティがクリスから金を巻き上げる計画をこそこそ話合っているシーンは、まるで歌舞伎町のホストとキャバクラ嬢のように見えたり(見たことないけど)。

騙されているとも知らず、キティに精一杯の好意を示す年老いたクリス。その好意を腹の中で嘲笑っているキティ。全冴えない男、涙なしでは見ちゃいられない。「もうやめてくれー!」「俺もクリスだー!」「いや、俺だー!」「ウーロンハイおかわり!」などと劇場の観客席からスクリーンに向かって、白いタオルがぽいぽい投げ込まれるのではないかと、自分もとりあえず白いタオルを握りしめ。

お金で繋がっているとは言え、武者震いするような美女と親密になった(気がしている)クリス。しかし、キティからの金銭の要求は留まる所を知らない。まるで「お金をくれれば愛してあげる」と言っているようで、まさしくキャバクラであり、ホストクラブであり、高額なお布施を競い合う新興宗教である。良くない!

"キティとジョニーがクリスからひたすら金を巻き上げる"一本調子の映画かと思うと、後半に微笑ましいようなふざけたような展開がある。何とクリスが画家として成功。クリスが趣味でやっていた日曜絵画が専門家に認められてしまう(どんな展開や。何かの暗喩だったのか?)。
愛する女キティと夢だった画家としての成功を手に入れ、とうとう幸せの絶頂がやってきたと思うクリスであるが、幸せは一瞬にして終わる。一連の出来事がジョニーとキティの計略(画家としての成功は別)だったと知ってしまう。

キティの裏切り発覚後、物語は走り棒高跳びの如く高く舞い上がる。ブブカを超えろ!怒りと絶望の極みに達したクリスはキティを殺害しちまう!やっちまったよ!おっさん!

そして、殺害はジョニーが犯人ということで都合良く解決し、ジョニーは死刑。クリスなりの復讐のはずであった、が。

クリスの心は癒されたかというと、そんなことない。良心の呵責でキティとジョニーの声が幻聴として聞こえるようになってしまい、ノイローゼに。大好きだった絵を描くことも殺人のアリバイに使ってしまったため、描くことができなくなってしまった。
結局、ホームレスに成り果てる。
ラングしゃんの「復讐では幸せになれないよ」というお説教が聞こえてくるようである。
クリスが列車で乗り合わせた新聞記者から言われる。「殺人の真犯人が逃げたつもりでも、誰も犯した罪から逃げることなんてできない。心の中の陪審員・判事らが罪について追及し、良心の呵責に耐えきれなくなるだろう。」(めっちゃうろ覚え)

人の寂しさは映画を見たところで埋められるものではないかも知れず、やっぱり亀有キャバクラ横領事件の会社員がこの映画を見ても事件は防げなかったかも知れない。冴えない男達の愛されたい願望というものは、凄まじく強力な負のエネルギーを持っているっぽいので、何とかして新世代のクリーンエネルギーとして発電などに応用できないものであろうか。冴えない男はパッと見、地味かも知れないが、絶望の日常、絶望の夜を愛を求めて震えながら幾多と乗り越えているのである。自分はそういう冴えない男達の物語に興味を覚える(あ、自分も冴えない男の当人じゃん)。でも、むさ苦しいので、なるべく離れて見たい。

ホーマー(妻の前夫)の噛ませ犬感には目を見張った。思いっきり泣くのと、思いっきり笑うのって似てる!

"若い頃の夢は忘れないさ"
これは年老いた人間にとって、幸福なことなのか、それとも不幸なことなのか。
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