ふき

死霊伝説のふきのレビュー・感想・評価

死霊伝説(1979年製作の映画)
3.5
スティーヴン・キング氏原作の『呪われた町』の実写ドラマシリーズを、映画用に再編集した作品(以下は一八四分の完全版の感想です)。

ブラム・ストーカー氏の『吸血鬼ドラキュラ』の中盤を、アメリカの田舎町「セイラムズロット」に置き換えて描いている。
三時間以上の尺があるが、元々四時間のミニシリーズを圧縮しているため、脚本と編集のテンポがよく、全体として見せ場の連続なので退屈することは少ない。
環境に放り込まれた異物で人と人との関係が揺らいでいく展開や、真っ暗な窓の向こうからスモークにまぎれて吸血鬼が飛んでくるシーンは「キング映画を見てるぞ!」感があるし、マーク少年の部屋の壁に一九三〇年代ユニバーサルホラーのポスターが張ってあったり、黒幕である吸血鬼がつるつる頭にネズミのような尖った前歯を持つ「ノスフェラトゥ系」のドイツ人だったりと、ホラー映画ファンにはニヤリとできるネタも多い。
『吸血鬼ドラキュラ』を参考にしつつも、冒頭が未来のグァテマラだったり、レンフィールド枠であるリチャード・K・ストレイカーが大きく動いていたりと、全然違うところは全然違うのも面白い。特にストレイカーを演じるジェームズ・メイソン氏はドラキュラを演じられる程の気品があり、序盤から中盤までのサスペンスを引っ張るメインヴィランとして申し分ない。デヴィッド・ソウル氏演じる主人公のベンも、終盤で見せるアクションは鬼気迫るものがあった。

ただし映画の構成的に見ると、序盤の一時間くらいは完全にいつものキング映画で、中盤の一時間くらいで吸血鬼が暗躍し始めてセイラムズロットが揺るぎ始め、終盤の一時間で人間VS吸血鬼が展開する、と少々いびつだ。
そのため、吸血鬼映画を見ようと思って手に取ると、一時間半~二時間かかるセットアップがかったるく感じてしまうだろう。かといって、原作でねっとりと描きこまれた「環境に染み込んだ悪意によって、田舎町が少しずつ闇の中に沈んでいく」という恐怖も、四時間に収めるだけでも大変だったところを三時間の尺に縮めたため、上手く描けているとはいえない。ゆえにキング作品としてもいまいち。
結果として、「キング作品って映画にするといまいちだよねー」の一作になってしまった感がある。

なお、この作品には一一〇分の日本公開版があるので、そちらを先に見ていると、完全版の評価が相対的にあがるかもしれない。一一〇分は本当に凄まじい短縮振りだから。
いずれにしても、本作の真の恐怖を体験したければ、原作を読もう。
ふき

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