ハター

ザ・シャウト/さまよえる幻響のハターのレビュー・感想・評価

4.0
凄まじい。改めて映画ってすごいものだと思わされました。
前衛音楽家の主人とその妻の元に人を殺める「叫び」をあげる事ができる男が現れ、妻を寝取り性奴隷にしてしまい家を乗っ取るという異様なシナリオ。これを知って「ほう、この発想は一体なんだ」と思ったのがまず最初。一体どんな映画になってるんでしょうと期待半分で実際見てみると、その奇抜な発想を殺す事なく徹底的に作り込まれていました。特に音に関しては非常に実験的な手法で、見終えた後に漏れる事なく印象に残ります。
音楽家を演じるジョン・ハートは教会のオルガン弾きをしながら、日々音の研究に余念がない。虫をグラスに入れてその羽音をマイキングするシーンはまず画自体が異様で、更にサウンドも重なり長々と見せられたらもう頭おかしくなりそうです。この演出には唸らされました。「叫び」で人を殺める能力を持つ役を演じたアラン・ベイツは、その容姿と出で立ち、声のトーンに至るまで狂気を含んだ奇怪な様子を感じさせ、特に「叫び」のシーンは、画面を見ているこっちも身構えてしまうような緊張感。耳栓越しに「叫び」を聞いたら気絶するというのがちょっと不思議な設定ですが、その気絶する役を請け負ったジョン・ハートの悶絶の表情もグッド。また、妻役のスザンナ・ヨークの体当たりな演技も良い。優しく従順な妻が次第に変貌していく過程を体ひとつで見事に表しています。ともかくキャストの印象度は抜群。そして音。音はこの作品を語る上では欠かせないものとなりました。
1978年の映画という事を踏まえて考えると、このSFチックでありながらも感じるリアリティは非常に新鮮で、その中で蠢く印象的な演出の数々と実験的な手法が魅力の…変な映画、と言ってしまいましょう。ただ、こうも個性的な作品もなかなか出会えない気がするし、なにより個人的に好みでした。イエジー・スコリモフスキ、天才か。いやーこれは映画館で見れてよかった。爆音シャウトを体感できて満足!
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