ゆん

先天性獣欲魔のゆんのレビュー・感想・評価

先天性獣欲魔(1994年製作の映画)
5.0
障害者福祉施設の近辺でレイプ殺人事件が起きるなか、そこに知的障害を持つ主人公ミンミンが入所する。レイプ犯に目をつけられた彼女の、地獄のような毎日が始まる...。

変態というものが、行為そのものよりもそれを欲する己にこそ欲情する自己愛だとしたら、彼こそが本物だと胸を張って言える。
凡人がいくら性欲が溜まろうとも、せいぜい部屋で悶々とするくらいなものだが、この男は違う。性への渇望と滾りを、筋肉美と、素晴らしい表情筋を使って全身で表現する。
恐怖する女性の前で暴れまわる自分にすら興奮してしまう彼は、凄惨な過去のトラウマや肉体の苦痛すらも快感に変え、恍惚の表情で暴行に及ぶ。その姿にはこちらも高ぶる愉快さがあり、同時にひどく滑稽でも痛ましくもあった。緊張感のある演技は、撮影現場の厳しさが目に浮かぶようだ。
レイプシーンでは、執拗に毎度毎度同じ体位!女性の脚をVの字に開くのが、ライティングも併せてドラマティックに場面を盛り上げる。しかもその時男の履いてるパンツは何故かお尻が丸出しのマヌケなもの。ちなみに調べたら深山、という体位で、下着はケツ割れパンツという名称のものだった。

レイプ魔の男は幼い頃、母親を目の前で殺されたトラウマで「赤い色」を見ると加害衝動が押さえられなくなってしまう。なので、英題が「Red to Kill」
はじめは善良そうな男性で、衝動を押さえようと葛藤もするのだが、後半はもう二度とこちら側の世界には戻ってこないという決意の丸刈りで、完全にあちら側にイってしまう。

そんなモンスターに襲われるミンミンは、まるで朝ドラのヒロインのように素朴で、健気で、芯から純粋な女性だ。障害や人生の悲しみの中で懸命に生きようとするが、ある日突然汚され、心身ともにどん底に墜ちていく。レイプされた後は何がなんだか分からず、シャワーを浴びながらカミソリで陰部を切り刻む。
恐怖と、怒りと、混乱と、絶望でおかしくなってしまいそうな自分を、痛みで引き留めるかのように。汚れた自分を罰するかのように。彼女はただ泣き叫んでいた。たった一人で。
もうやめてあげてくれというこちらの思いとはうらはらに、何度も脅かされ、立ち直ろうとしては挫かれ、打ちのめされる。
それなのに、ラストの直接対決で男に立ち向かっていく姿は、マッチョな役者がどんなアクションを繰り広げるよりも勇敢で、力強かった。お世話になった先生が犯されそうになった時には、自分の体を生け贄にして先生を守ろうともする。
先生もミンミンも、レイプ男も、三人が三人とも必死の形相で熱戦を繰り広げる。手に汗しながら鑑賞し、最後には呆然としてしまうほどの喪失感。
本作にはモラルも、教訓も、救いも一切ない。ただ、どうしようもなく面白かった。
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